茶一郎

クワイエット・プレイスの茶一郎のレビュー・感想・評価

クワイエット・プレイス(2018年製作の映画)
4.2
「音を立てたら、即死」という映画ですから、この映画中、いつものように大きな音を立てながらポップコーンを食べるような輩は、即、他の観客に白い目で見られます。それほどに映画館の防音機能と音響が愛おしくなる。おそらく本作『クワイエット・プレイス』の怖さをホームシアターで再現することは不可能でしょう。

 映画における「静」と「騒」のコントラスト、その重要さを手に汗握るサスペンスで見せきる『クワイエット・プレイス』は、『ドント・ブリーズ』、『ゲット・アウト』に続く全米サプライズ大大ヒットの一本です。
 本作の勝因はキャッチコピーにもある「音を立てたら、即死」という理不尽な世界観を用意した思い切り良さ、さらにその強引な設定をこれ以上ないほどうまく利用した、本作で監督デビューというジョン・クラシンスキーの手腕にあるように思います。
 上述した『ドント・ブリーズ』、『ゲット・アウト』を徹底的に研究したというクラシンスキー監督は、90分というタイトすぎる上映時間を綺麗に3分割で3幕構成にし、ヒッチコックの言う所の「サプライズとサスペンスの違い」をそのまま物語に組み込んだ「釘」や、上映時間の真ん中45分で大きな転換点が来るように物語を設計しているなど、クラシンスキー監督はまさに秀才!です。

 加えてクラシンスキー監督のプライベートな奥様であるエミリー・ブラントを妻役、主演女優に添えた事で、「夫婦」、「家族」の物語としての本作『クワイエット・プレイス』が強調されました。
 「音を立てたら、即死」の世界で、なぜ親は子供を産まなければならないのか、なぜ親は子供を守らなければならないのか。この極限の状況でも、登場人物たち彼らの「親」としてのアイデンティティ喪失への不安は、映画を観ている我々の世界におけるそれを変わりはありません。

 子供を産み・育てる親にとって、きっと現実世界はこの『クワイエット・プレイス』の「音を立てたら、即死」な世界と同じくらい怖いものなのかもしれない、と思って映画を観ていました。
 怖くて、サスペンスフルで、フレッシュで、それでいて最後に映画館に子供を連れて来た親を感動で泣かすなんて!なんて優秀な作品だ!『クワイエット・プレイス』!
茶一郎

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