ま2だ

クワイエット・プレイスのま2だのレビュー・感想・評価

クワイエット・プレイス(2018年製作の映画)
4.4
クワイエット・プレイス、観賞。

結末が指し示す方向と人間性の掘り下げ方、その2点をもってして、ホラーというよりは激スリリングなソリッドシチュエーションSFと言うべきか。音を立てたらアウト、という設定を安っぽいパーティーアクションホラーに落とし込まなかった製作陣に拍手したい。小ぶりだが筋肉質な秀作だ。

映画への予備知識がある者にもない者にも設定とマナーをIT的なサプライズつきで叩きこんでくるアヴァンタイトルからいきなり秀逸だ。

設定上、セリフがきわめて少ない作品だが、余韻や空白をたっぷりと捉えたカメラも特徴的で、良質なSF短編小説の地の文章が脳内に流れ込んでくるような感覚になる。ランドマークはじめ要素もディストピアフィクションとしてしっかり刈り込まれており、情景とその行間を「読める」映画だ。

夫婦が静かに寄り添い踊るシーンで分け合うイヤホンから流れるのはニール・ヤングのハーヴェスト・ムーン。家族がそれぞれの方向へ歩き出す中盤の十字路のシーンと並んで、言葉はなくとも能弁で美しい。

描写については恐怖と人間ドラマ、細部にあれ?という点がないわけではないが、いずれも非常にフェアな姿勢が印象的。チートも突然変異もなし。ここ試験に出ますよ、という箇所がしっかり提示されきっちり機能する。人間ドラマにおいても几帳面に伏線が回収され、伏線至上主義ではないのだけれどこのタイトさはなかなか心地よい。

同じく辺境に孤立した家族をミニマムな社会/共同体として描き、その崩壊を通して人間の脆さを強烈に印象づけた傑作ホラー「ウィッチ」に対して、本作で描かれるのは孤立したことでコントラストを濃くしたプリミティブで規範的な家族像だ。同じく恐怖を媒介としながら、炙り出された物語の結末の差異に注目しながら観るのも面白いだろう。

あくまで安易なアクションホラー化を回避し、終始防戦一方だった人間が、その尊厳を取り戻した瞳の輝きが印象的な幕切れもセンスがいい、というかブレがない。エミリー・ブラントの美しさが際立つシーンだ。

本作の監督であり、実生活でもエミリー・ブラントの夫であるジョン・クラシンスキー演じる父親周りの演出が、全体のトーンから見るとやや感傷的に傾いているが、エンタメの範疇に収まっていると思う。

クリーチャーがしっかり顔を出す映画としては、抑制の効いた知的な語り口とアクションに頼らない恐怖の醸成、そして(少し懐古的だが)家族の再起/再生とのハイブリッドを楽しんだ。非常に好みの作品。
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