幽斎

クワイエット・プレイスの幽斎のレビュー・感想・評価

クワイエット・プレイス(2018年製作の映画)
4.4
2018年を考えた時に、絶対に外せないのが本作。極めて秀逸な作品ですが、一方で「あんな時に妊娠するかね」「滝の所に住めばいいのに」「エイリアンが出てくる基準がいい加減」とのご意見も良く耳にします。それでも本作はもっと評価されて良い作品だと思います。

良い点として無駄な説明が有りません、ディストピアを描く時に、崩壊の過程だったり原因を説明するのが普通ですが、この作品では既にQuiet Placeは始まっているのです。開始直後からポップコーンをゴソゴソすると白い目で見られる訳で、このオープニングでJohn Krasinski監督、貴方凄い!と思いました。映画は映像と音楽の一体感で成り立っており、片翼で作品を描くには相当な才能が必要です。それを荒廃した街のヴィジュアルだけで観客に解らせるテクニックに驚嘆した。一方で、Marco Beltramiの音楽も素晴らしい。音を立てるな!と言っておいて、それに加える音楽の思慮深さも一聴の価値ありです。

最初に命を落とすのは、1番若い人間です。これが示すモノは人間が増え続けないとエイリアンに対抗できない、と言う事です。子供を守る事が最大のミッションとすれば、だからこそ妊娠なのです。監督の実際の妻であるEmily Bluntが演じてるからこそのテーマの重みを、シンプルに受け止めるべきでは、と思います。この家族は手話が使える事で生き延びてる訳で、劇中に出てきた老人は妻が亡くなり絶望して自殺した。この世界は「アイ・アム・レジェンド」の様に男が1人でカッコ良く暮らす、そんな甘いもんじゃないよと戒めてます。家族が居るからサバイバルに耐えられる訳で、種の生存闘争の概念が他のSFと大きく異なる点です。

音を立てたら殺される、と言う世界観は何を意味しているのでしょう?それは行き過ぎたネット社会への警鐘かと。ソーシャル・ネットは便利な反面、何か有ると直ぐに出る杭は打たれます。最近ではM-1グランプリの騒動も有りましたが、昔とは考えられない位、些細な事でも社会から抹殺されます。音を立てない社会が監視社会とリンクしてるSFらしい世界観だと思います。この映画がキッチリ90分なのも、集中できる限界の時間だからでしょう。

スリラー目線で観ると、冒頭で述べたアラが目立ちますが、映画館で観た思い出込みで楽しめるSFサスペンスとして、2018年を代表する1本。Blu-rayで観る時はヘッドホンもお薦めです。
幽斎

幽斎