これは中々に面白かった。
音に反応するモンスターなど、もはやクラシックな存在であり擦られまくった題材なのだが、それをここまで新鮮味を持たせて作り上げた事にまずは好印象を受けた。
「音を立ててはいけない」を最大限誇張するだけで、ここまで挑戦的に感じるものなんだなーと、映画の持つ可能性をまた少し押し広げてくれたと思う。
何かを限定する手法といえば、最近だと全編PCの画面上で物語が展開していくsearchを思い出す。
目新しさに加えて脚本も秀逸であり、あれこそ新しい映画のかたちであると絶賛させていただいたが、今回こちらの方が画作りの上手さとしては正直なところ感じてしまった。
というのも、今作が試みた「チャレンジ」を有効的に活かした没入体験をさせてくれていたからだ。
劇中に登場する家族は、モンスターの脅威をなるべく遠ざける為、会話をするのもほとんどが手話を用いていて声を発さない…のかと思いきや、周りの自然音に負けてしまう程に本当に耳を凝らさないと聴き取れない声だが、なんと微かに喋っているのだ。
ちなみに、僕は吹き替えで鑑賞したのだが、聞こえるか聞こえないかの囁き声でちゃんと吹き替わっていたのがなんだか面白かった。
もちろん字幕が無いと声だけでは何を言ってるのか理解は出来ない。
なるほど、この音を極限に失った世界で微かに聞こえる声を聞き逃さんと、耳も目も画面に集中してしまう。
劇場で観たらその感覚はひとしおだったに違いない。
そんな神経が研ぎ澄まされている中、何処からともなく突如襲い来るヤツらに、おかげで独り言もより多くなっていた。
引き込む力と突発的な緊張。
こりゃ上手いこと出来てんなぁと、思わず感心してしまった。
それにしても、この映画はあの長女に対してどんな感情を抱かせたかったのか?
他にも子供がいるのに彼女だけ悪目立ちしていた。
取る行動全てが何かしらの問題に発展してしまううえに、演じた女優さんには本当に申し訳ないが、絶妙に愛せないビジュアルなのである。
可愛くもなければ、あのようなサバイバル的状況下で著しく輪を乱すし、そこでそれだけはやめてくれというタイミングでそれをやってしまうしで、彼女に対してイライラが募るばかりであった。
家族愛をテーマに盛り込んでおきながら、あのキャラクター像はノイズでしかなかったし、父親の最後の行動も残念な事に感動が薄らいでしまっていた。
実際に聴覚障害のある女優さんを起用したらしいが、そこのリアリティにこだわらず、素直に美少女であれば「ただしイケメンに限る理論」で思春期の反抗心から起きた過ちとして受け入れ方も違ったか。
それとモンスターの弱点だが、あの程度で怯んでしまうようならむしろ脆弱ではなかろうか?
あのような設定では、敵が音に敏感である事を発見出来た時点で、人類があそこまで窮地に立たされる前に、どこかの高名な学者かなにかがすぐに対策し、根絶やしに出来ている筈だ。
人類には音で人を殺せる兵器すら作れる科学力があるのだから。
ただ、モンスターのデザインは好きだった。
鎧状の外皮の中に隠れている鼓膜というか中耳が発達したような器官とか、色々グロカッコいい。
最後に、他の方からのツッコみが最も多かった出産の展開については、冒頭で起きる「ある喪失感」を埋める為であるとしっかりフリもあったので、決死の覚悟を決めるほど空いた穴は予想より遥かに大きかったんだろうなと、理解も納得も十分出来た。