かたゆき

ある女流作家の罪と罰のかたゆきのレビュー・感想・評価

ある女流作家の罪と罰(2018年製作の映画)
4.0
彼女の名は、リー・イスラエル。
かつて一冊だけベストセラーを出したものの、その後はずっと鳴かず飛ばずの落ちぶれた毎日を過ごしている伝記作家だ。
生来の酒癖の悪さから友達は一人もおらず、長年連れ添った恋人にも捨てられ、唯一心を許せるのは年老いた飼い猫のみ。お洒落もせず髪の毛だっていつもぼさぼさ、おまけに酒が原因で唯一の収入源だった仕事も首、家賃は何か月も滞納、愛猫の治療費すらままならない。
そんな酒浸りで八方塞がりの彼女が、生活のために犯した犯罪――。
それは、有名人の遺した手紙を捏造してコレクターに売りつけること。
著名作家やハリウッド俳優の署名を偽造し、文面も自ら考えた彼女の手紙は、その道のプロにさえ見抜けない精巧なものだった。
偶然再会したゲイの元作家を相棒に、ただひたすら生活費を稼ぐ彼女。
だが、当然のようにそんな生活が長く続くはずもなく、信憑性に疑問を抱いた蒐集家の通報から、とうとうFBIが動き始めて……。
有名人の遺した手紙を捏造し有罪判決を受けた、“ある女流作家の罪と罰”を実話を基に描いたヒューマン・ドラマ。

何の予備知識もなく今回鑑賞してみたのですが、いやはや、これがなかなかの掘り出し物でした。
冒頭から、この冴えない太ったおばさんのどうしようもないダメ日常が描かれるのですが、これがまあ自業自得としか言いようがなく、そんな彼女とバーで意気投合するゲイのおっさんもこれまたどうしようもないダメ男。
この二人が手を染めることになるのが、手紙の偽装。
正直、ちんけな犯罪で騙す方にも騙される方にも別段同情心は湧いてきません。
だけど、この二人のどうしようもないトホホな感じ、見ていてなんか癒されるんですよね~。
「人間どんな状況に陥っても意外と生きていけるもん」という彼らの開き直りっぷりが小気味いいのかも知れません。
主役を演じた、メリッサ・マッカーシー&リチャード・E・グラントもそんなダメダメ男女を伸び伸びと演じていて見ていて清々しいくらい。
二人そろってアカデミー賞ノミネートも納得です。
特に、M・マッカーシーのどこにでもいるおばちゃん然とした佇まいは味があって大変いい。
当初はジュリアン・ムーアがキャスティングされてたみたいだけど、断然こっちの方が正解ですね。
愛猫が亡くなったと知って哀しみに暮れる彼女の涙には、思わず貰い泣きしそうになっちゃいました。
全編を彩るジャジーで落ち着いた音楽も雰囲気があって大変よろしい。

人間、なにがあろうと気の持ちようでどうとでも生きていける――。
そんな勇気が湧いてくる、人生の深い哀感に満ちた人間ドラマの佳品でありました。
お薦めです。
かたゆき

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