ジジイ

四月の永い夢のジジイのレビュー・感想・評価

四月の永い夢(2017年製作の映画)
4.2
冒頭の桜並木と菜の花の中にたたずむ喪服姿のカットが哀しく美しい。恋人に永遠の別れを告げられたその年の「四月」に、ずっと頑なに閉じこもっている彼女の心が、一瞬にして伝わってきて胸が苦しくなるのだ。中川監督によれば初海役の朝倉あきは完全な当て書きだという。確かに彼女の凛とした佇まいと心地よいが芯の強さを感じるその声が、このキャラクターには不可欠だと感じる。喪失感と罪悪感を抱きながらひたむきに生きようとする主人公の日常と再生を丁寧に描き上げた一本。





以下ネタバレです。





母親に自死の少し前に別れていたことを告白するシーンは「東京物語」の原節子が義理の父母に死別した夫を「思い出さない日もある」と苦しい胸の内を吐露するシーンにも似ている。そんな自分を「ずるい」と責める彼女の姿は、そのまま花火の夜の楽しい出来事に浮かれる自分に気づき、それを恥じてしまう初海の姿に重なる。この少し踊るように歩くシーンの直前、カメラはしばらく彼女の背中を斜め上から見下ろすように捉えている。まるで故人が「その(嬉しい)感情を素直に楽しみながら生きてくれ」と温かく見守っているように思えて切なくなった。
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