3年前に彼を亡くし、教師も辞め、近所の蕎麦屋さんでバイトをして暮らす27歳の滝本初海。ある日亡くなった彼からの手紙が彼の母親経由で届き、日常が動き出す。元生徒との再会、手ぬぐいの染物工場で働く男からの告白・・・
春のに包まれたハイトーンの色彩の中から物語は始まる。アナログな暮らし、いろんなものを排除し、蕎麦屋で働く日々。ただなんとなく無気力に過ごす日々を穏やかな表情で演じるのが朝倉あきである。備わった上品さと空気を纏って言葉を吐く独特な言葉の間が、本作の”歩く”事で風景美をしっかり描写し心情の変化を綴っていくのにぴったりだ。アナログな暮らしの中に全く嫌な空気感がない。それは彼女が纏う空気感のせいだろう。教え子との再会により滝本初海はまた表情を変える。しっかり先生の顔になるのだ。
富山と国立の初夏の日差しと自然の緑に差し込む光を彼女にまとい、見事な瑞々しさと透明感を放つ。桜、浴衣、花火と日本ならではの美しさをそっと寄り添わせ、そこにのる心洗われるような優しい音と、「赤い靴」の音楽が心地よい。
3年前に止まった時間をゆっくりと動かすのは、人との出会いや、誰かの言葉だったりする。しかしそうやって誰かと出会えたり背中を押してもらえるのは、自分自身がその準備が出来たからだと私は思う。2年間も思い続けた手ぬぐい職人とのシーン。染め上った手ぬぐいをただ見るのではなく、寝そべって見るシーンが印象的だ。
下から上を見つめる。たったそれだけの事だが、人生見方を変えれば全く別の色に見えるんだと、ラストシーンに繋がって言うのが良い。
何気ない言葉のチョイスがじんわりと心を温め、移り変わる日々の中で新しい物を見つけていくことの大切さと、古き良きものの大切さの混合を胸にスーッと落として行ってくれる。日々新しい事を追い求める事も大事だ。しかしふとした時にやはり今まで積み上げた物、古き良き物に守られて生きてる事を思い出し、本当に大事な物に気づいた時、人はまた前向いて進めると思う。
(オンライン試写)