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四月の永い夢のKKMXのレビュー・感想・評価

四月の永い夢(2017年製作の映画)
4.4
とても上品で温もりのある、静かなる良作でした。

時間が止まっていた主人公が、その原因となった喪失体験と向かい合いうといったタイプの作品で、少しだけマンチェスター・バイ・ザ・シーっぽいなぁとの印象を受けました。
そんな細やかな変化をテーマに据えた映画なので、当然雑な作風ではなく、予測通り内容は丹念に描かれていきます。丁寧で繊細な地味映画を好む私にとっては、はっきり言ってド真ん中の作品でした。

何気にもっとも印象に残ったのはラジオでした。
主人公・初海は恋人を亡くし(多分自死)、3年間時が止まっています。そんな寄る辺なく四月の永い夢の中を漂っている初海は、意外とラジオに支えられてきたのかな、なんて感じたのです。ラジオだと、スピーカーの向こうに人の息遣いがあります。TVや音楽に比べ「人が側に居る感じ」があるのではないでしょうか。SNSとかだと今度は近すぎて揺さぶられる。初海が夢から覚める準備をするためには、ラジオとともに暮らす日々が不可欠だったように感じます。音楽もラジオを通すからこそ、初海に響いたのかもしれません。

また、初海が暮らす国立の街の雰囲気も素晴らしいです。バイト先の蕎麦屋も、お客とのコミュニケーションがあり、一緒に夏祭りに参加するなど、地域の縁が切れていない。だから初海も人の縁から切れないため、本質的な転落はしない。

志熊さんや楓との出会いによって、少しずつ現世とのつながりを取り戻していく初海ですが、描かれていない3年間で、喪失と向かい合う準備ができていたのではないかなぁ、なんて思ったのです。ラジオと街のぬくもりによって、初海は孤立せずに3年間に及ぶ四月の永い夢の中を生きれたのではないでしょうか。逆を言えば、初海には物語が始まるまでの3年間が必要だったように思えました。

また、蕎麦屋でバイトしていたという日常を生きたのもよかった。初海はおそらく実家に戻るという選択肢もあったかもしれませんが(初海の原家族は一切登場しないので、戻れない事情があったかも、でもそんなのはどうでもいい)、こらえてバイトを頑張ったのは凄い。
初海にとって、恋人の喪失のショックとおよびそれに関する心の澱で時間が止まっていたのですが、街やラジオに守られ、堪えながらもできる範囲の日常をこなしていました。なので、実は初海はちゃんと時間を生きられていていたのでは、と感じたのです。そのためか、富山での初海の告白は、機が熟してポロリと果実が落ちるような自然さがありました。

「人生とは得ることではなく失うことであり、その中で自分自身を発見していく」といった印象的な台詞がでてきます。実は得ることと失うことは表裏一体だと感じます。
喪失だけでは自分を発見できません。喪失と向き合うことで自分を発見できるのです。それすなわち新しい何かを得るということではないでしょうか。
喪失と向き合うことは新しいスタートであり、それが冒頭に述べたマンチェスター・バイ・ザ・シーっぽさなのかなと感じたのだと思います。

朝倉あきは綺麗ですね。皆さん指摘していますが声が良い。映画館で最近のインタビュー記事を見ましたがボブヘアになっており、あまり似合っていなかったな。
中川監督は若き俊才といった雰囲気。ちょっと懐古趣味が強いけど、それに酔っ払ってないのでオッケー。スマホでテーマ曲を聴きながら夜の歩道を歩くシーンは特に印象的。というかサウダーヂを思い出してしまったよ!個人的には追っかけてみたい監督です。