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四月の永い夢のlpのネタバレレビュー・内容・結末

四月の永い夢(2017年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

※2018年6月5日に2回目の鑑賞後、大幅に書き直しました!

『愛の小さな歴史』『走れ、絶望に追いつかれない速さで』で、東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に2年連続参加した、中川龍太郎監督の新作。個人的には過去作を見逃していたので、今作が初めての中川龍太郎監督作です。

映画の内容は、死んだ恋人の影を引きずる主人公の再生・・・というよくある話。しかし、そんな手垢の付いた話が、音楽や道を歩く主人公の姿と風景の移り変わりで、主人公の心情を切り取って映す中川監督の演出と、美しい映像の力が下支えとなり、鮮やかなドラマへと昇華する。暴力・出産・バツイチと、主人公を取り巻く女性陣が各々に恋愛に係る事象を抱える点も巧い。これは刺さる人には、年間ベスト級になる勢いで突き刺さる映画ではないかな?

個人的には総じて悪くないと感じつつも、話がなかなか進まず間延びした点で乗れず、ものすごく突き刺さったという訳では無し。ただ、今作を機に監督の過去作をキャッチアップしていきたいとは思います。
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以上が1回目に観終わった時の感想だったのだけれど、中川監督ごめんなさい!ラストの朝倉あきの笑顔が頭から離れなかったり、「書を持ち僕は旅に出る」が耳に残り続けた結果、iTunesでダウンロードしてしまったりと、メチャクチャ刺さってました!

という訳で、2回目の鑑賞。そしてこれが非常に発見の多い、実りのある鑑賞になった!

まずストーリー。「恋人を喪った悲しみから立ち直る女性の話」と単純に解釈していたけれど、注意深く物語と向き合うと、その裏にある主人公のもう1つの行動原理が伝わってきた。

その行動原理とは、主人公が引きずるものが「好きだった男の恋人でいられる自分」という自身のステータスであることだ。
これは本作が抱える最大の秘密である、「主人公と死んだ恋人は、実は別れていた」というところから、「何で主人公は別れた恋人にそこまで失着するのか?」と考えた結果である。
この解釈が正解か不正解かは分からない。しかし、こう解釈することで、違和感を覚えた幾つかの点が、個人的にはすんなり入ってきた。例えば、印象的な冒頭の独白。自身の境遇を「真っ白な世界」と主人公は評する。しかし、主人公が引きずるものが、「愛する人の死による悲しみ」だけであれば、この時に出てくる色は「白」よりも「黒」などの暗色の方が自然である。そこから、主人公が引きずるものは、「恋人の死による悲しみ」だけではないことが伝わってくる。

主人公が教師に復職しないことにも、合点がいく。主人公が教職を離れた理由は、直接的に描かれないけれど、青柳文子演じる友人とのやり取りから察するに、愛する人の死によるショックが大きかったのだと察せられる。しかし、それから3年も経って復職しない理由は何か?それは教職から離れていることで、「恋人の死に悲しむ女性」でいられるから。つまり「本当は別れてしまっていた恋人と、まだ繋がっている」と周りから見られる。そんなステータスが、主人公は欲しかったのではないだろうか?
ちなみに、こう考えた結果、蕎麦屋の女将が閉店を告げるシーンで、蕎麦屋は居心地が良かったと語る主人公に対して、「そういうところだよ」と忠告するやり取りや、復職の面接後に主人公が友人に伝えた「考える」が何を考えることを意味するのかが、掴めてきた。

ちなみに、誤解される可能性があるので書いておくと、上の解釈は主人公の死んだ元恋人に対する恋愛感情を、何ら否定するものではないと思う。何故なら主人公が既に別れた相手の死に固執する背景には、「ずっと愛する人と繋がっていたい」という恋愛感情があるからこそだ。(それを「深い愛」と捉えるか、もはや「狂気」と捉えるかは、人それぞれだと思いますが。)

続いて音楽。
耳に残る「書を持ち僕は旅に出る」。映画の中で3回使われているのだけれど、その使い分けが巧い。
1回目は前半。主人公が部屋でゴロゴロしている時に、ラジオからイントロが流れてくる。このシーンは音質の悪さがポイントではないだろうか?後の熊太郎とのやり取りで明かされる通り、主人公は好きな音楽がラジオから流れてくると、普通に聞くよりも良いと言っている。なので、この1回目でイントロが流れる時も主人公のテンションが上がってもおかしくないのだけれど、特に変化なし。これは話の主題である、「主人公の再生」がまだ始まっていないことを表し、主人公の沈んだ気持ちは音質の悪さに重ねられているように感じた。些細なシーンだけれども巧い。

そして、非常に印象的な使われ方をする2回目→1回目とはうって変わって、最高の音質で主人公が好きなラジオから流れるラストの3回目と、「書を持ち僕は旅に出る」は主人公の幸せのバロメータになっていく。そのため、ラストが最高のハッピーエンドになっていることは、1回目の鑑賞時以上にしっかり感じられた。曲の良さとも合わさって、すごく良い!

最後に演出。
冒頭→富山に行く直前→富山で一晩経った後・・・と、同じ道を使った演出は、色味や主人公の動きの有無にまで気を配っていることが伝わってきて、1回目の鑑賞時以上に中川監督の巧さを感じた。

そして、2回目での発見となったのが、手ぬぐいをキーアイテムにする巧さ。真っ白な世界にいる主人公の世界に彩りを与える熊太郎が、真っ白な布に色を着ける手ぬぐい職人(?)という設定の説得力たるや恐るべし!

仕掛けられた数々の技巧が理解できてきたことで、現在今作の評価は「年間ベスト級」にまで上がった!そしてそれと同時に、1発でここまで理解が追い付けなかった自分の鑑賞眼の無さを悔やむ!
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