Inagaquilala

四月の永い夢のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

四月の永い夢(2017年製作の映画)
3.4
恋人の死から3年、いまだにそれを引きずり、音楽教師の身分を捨て、近所のそば店でアルバイトをして毎日を過ごしているヒロイン。彼女の前に、ひとりの青年が現われ、好意を寄せてくるのだが、なぜか彼との付き合いに踏み切れない。親しい人間の死から始まるモラトリアムな心情を、丁寧に描いた作品なのだが、いまひとつヒロインの気持ちをしっくりと受け止めることができない。ふたりの間に何があったのか、その理由は最後までぼんやりしたままだ。

春の花のなかで、ひとりたたずむヒロインの姿がたびたびインサートされる。それがタイトルの「四月の永い夢」なのだろうが、本編の舞台はほとんど夏なので、彼女の回想場面として見てとれる(あるいは彼女の夢のなかのシーンか)。フォーカスを緩くしたぼん幻想的な場面なので、現実のようには受け取れないが、このシーンに象徴される全体のトーンが、どうも自分には作品のなかに没入できなかった理由かもしれない。

リアルな現実から浮遊しているヒロインが、どうにも歯がゆいし、それが表現としてはやや手ぬるい感じもした。細やかに考えてつくっているとは思うのだが、どうも肌合いのようなものが合わないのかもしれない。中川龍太郎監督が、その声を聞いてヒロイン役に抜擢したという朝倉あきは、さすがにこの作品に見事にマッチしていたが、新しいジャンルの役にも挑戦してもらいたい、期待を込めて。
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