背骨

THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティの背骨のレビュー・感想・評価

4.5
あらゆる面で監督の個性というものが前面に押し出されてくるので、賛否両論飛び交いやすい典型的なタイプの映画だと思うけど、自分にとっては“テーマ、世界観、編集、音楽”など極私的趣向のツボを刺激してくるような映画で、たとえ他の人たちのレビューの点数が何点だろうと、専門家の評価がどうであろうと、そんな事は全く気にならない大好きな作品。

「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。」
(アキ演じるオフィーリア)

女優を目指していたオリア アキだが、愛するものを失った悲しみから生きる目標を失い、10年間モラトリアムに過ごしてきた。
ある時、現実と妄想の境界線が歪み、2つの世界を行き来するようになり、さらに時間軸も飛び越えるようになる。

その中で、30歳を目前に女優の夢に程遠い今の自分と、決して取り戻すことができない10年の月日という「受け入れがたい現実」と向き合おうとするたびに「今は亡き恋人カイトとの美しい思い出」や「今よりも素晴らしいはずのここではない何処か」へ逃避したくなるリセット願望が無限ループで頭をもたげてくる。

「時間って、ずっと流れてると思ってる?時間って、実は流れてないんだよ。」(ブッチ)

冒頭、アキと彼女の精神世界の象徴 ブッチが語り合うシーンで「過去・現在・未来がすべて同じ空間の中で同時進行しているという概念のスポットライト理論」という興味深い内容のものが話しに出てくる。

難しい学問的な事は全くわからないが、このスポットライト理論とやらが、この映画をより複雑に、わかりにくく、しかし面白くしている要因だと思う。

普通なら「時間は一方向に流れていて、決して後戻り出来ない。…だから今を大切に…」という方向にストーリーを進めてしまいがちだけど、「過去・現在・未来がすべて同じ空間の中で同時進行している」というこの映画の中での前提があり、さらに現実と妄想も自在に飛び越えていくので、今、映し出されているものは過去なのか?現在なのか?現実なのか?妄想なのか?がわかりづらくなっている。なんとなく想像はつくけど、特に説明はないので確実な正解はわからない。映画を観ている間、常に問題を出され続けているような感覚になる。

「この世界は全部、お前のもんだ。」(ブッチ)

現実だか妄想だかわからない世界でブッチは言う。「すべてお前が作ったもんだろ。」
アキの妄想世界の中では、世界の中にアキがいるのではなく、アキが見ているものこそが世界そのものなのだ。

アキが妄想で作り上げている世界。それをこの映画は完全には否定しない。そのアキが作り上げた世界を肯定しつつも、逆側から、つまり世界の中に自分がいるという現実も受け入れよ。と言ってくる。

つまり、この映画の中では世界は、自分が見ることで作り上げられる世界と世界の中にいる自分、その両面から成り立っている。という世界観なんだと思う。

解釈の仕方は見る人それぞれあると思う。
しかし、この映画を好きになれるかは、テーマやメッセージ的な部分でこのあたりの世界観にどのような解釈であれ共感出来るかどうか?だと思う。

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この映画の魅力はそういったストーリー展開や世界観だけじゃない。

極彩色豊かなサイケデリックな映像、キレとテンポが良い編集。そして監督自ら選曲したという音楽のセンス。

そのあたりの知識と語彙力に欠けるので、素晴らしさをうまく伝えきれないけど、映像・音楽ともにこの映画の世界観を作り上げる重要なファクターになっているのは間違いないし、大きな魅力となっている。

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キャストについて

主役のオリア アキを演じた桜井ユキは素晴らしい演技でこの映画のすべてとも言える世界観を一人で背負っていた。この作品をキッカケに注目されて、さまざまな作品で活躍してほしいと思う。

そして、みなさん注目の高橋一生は、期待通りの高橋一生ぶりを発揮してくれるので、高橋一生クラスタのみなさんは是非とも見逃す事がないよう、お伝えしておきます。

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この映画、いろいろ複雑に作られているけど、どこか1番好きかというと、結局は「ひとりの女の子が踠きながらも、受け入れがたい本当の自分に向き合おうと最後の最後まで格闘し続ける話」だからなんだよね。

ここまで書いてきて申し訳ないんですけど、うまくレビュー出来なかったかもしれない。この映画の面白さを伝えられてないような気がするんで、興味がある方は是非ご自分の目で確かめてください。

この映画、興行的に成功するかはわからないけど、自分にとっては好きな作品だし、ずっと応援していきたい。

そして、監督の次回作にも期待してます。
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