Inagaquilala

THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.7
寺山修司の映画「田園に死す」の一場面に似た新宿街頭でのシーンが登場したり、主人公のアキが所属するサーカス団が同じく寺山の劇団「天井桟敷」を彷彿とさせたり、自分としてはかつて享受していた寺山修司的世界が、21世紀のクラブミュージックに乗って蘇った感じがして、ストーリーがどうのこうのという以前に、実に刺激的な映像体験であった。たぶんこれだけの編集を施すのは、かつてのアナログフィルムのときにはかなり困難な作業であったと思うし、この時代であればこそ誕生した作品なのだと思う。

カットの内容については置いておくとして、そのつなぎにおいては明らかに何らかの才能を感じる。とくに音楽に乗せた切り替えは素晴らしく、監督が映像派であることは一目瞭然だ。「壮大なミュージックビデオ」とスルーして片づけることもできると思うが、自分としては展開される映像が結構楽しめてしまったため、その言葉を賞賛として贈りたい。

映像にはアングル、カット割り、小道具となかなか注意を払っているようだが、主人公アキの分身であるブッチのメイクにはやや閉口した。チープなうえに、イメージもありきたりで、大切な役どころゆえ、もう少し熟慮が欲しかったように思う。カイト役の高橋一生の演技は、やはり抜きん出ていた。作品のキーポインともなる重要な役どころで、彼とアキの最初の出会いのシーンはなかなか印象的だ。あれなら誰でもカイトの世界にはまってしまうに違いない。

精神世界をビジュアル化しているため、監督は縦横無尽に映像を展開しているのだが、彼がもしリアルな世界で作品を構築していくとしたら、どんなものになるのだろうかと期待が沸いた。現実という縛りがあるなかでどれだけの映像美を提示できるのか、ぜひ二宮健監督にはリアルな世界を描いた作品にも挑戦してほしい。
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