ぺん

フジコ・ヘミングの時間のぺんのレビュー・感想・評価

フジコ・ヘミングの時間(2018年製作の映画)
4.0
異色のピアニスト、フジコ・ヘミングの演奏ツアーを追って世界を巡るドキュメンタリー。
70代手前で売れっ子になり、フランス、ドイツ、アメリカ、京都にも住処を持つようになった彼女。
東京では昔と同じ、下北沢の実家に住む。

ミスの多い弾き方や、情感たっぷりな古い表現法、その複雑な生い立ちを売りにしているなどと
演奏技術を第一に考える専門家から批判の多いピアニストなのは知っている(当然ご本人もご存知)。
「あんな婆さんよりも上手い演奏家はいくらでもいるから聞け」とばかりに様々な演奏CDを貸してくださる方もいた。
気持ちはわかります、自分も半端な映画オタクだし。
でも時折見かける偏屈なオタクは、日本クラシック界の敷居を高くしてるんじゃね…と思いもする。

話はそれたけれど、フジコが魅力的な女性であるのは確か。
それに惹かれて彼女のピアノを聞くこと、自由に音楽を楽しむことの何がいけないんだろうか。
ベートーヴェンやモーツァルトだって型破りでありつつ古典的な人たちだったし。
彼女の自由さは良くも悪くもクラシック界に一石を投じ、音楽弱者の敷居を下げたのでは。

世界各地で大好きな猫や犬と暮らし、国も世代も性別も違う友人たちと楽しむ姿。
天国では獣医をやっていた祖父に会いたいと話す姿。
今も恋をしている、と照れ臭そうに話す姿は少女のように無邪気にも見える。
弟の大月ウルフも登場し、幼少から苦労しつつも仲の良い姉弟だったと伺い知れる。

自分たちを捨て、故郷で別の家庭を持っていた父親の描いたグラフィックを前に、
「悪いばかりの人じゃなかったと思います」と言う。
ここまで来るのにたくさんの葛藤があったんだろう。

「良いことばかりじゃつまらない、センチメンタルなのも良いじゃない」
余韻の残る台詞にも情の深さが表れていた。

ピアノを愛し、長い時間をかけて自分を愛するフジコは唯一無二の人だと思う。彼女の人生を垣間見れて嬉しい。
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