あをによし

フジコ・ヘミングの時間のあをによしのレビュー・感想・評価

フジコ・ヘミングの時間(2018年製作の映画)
3.2
これは最近よく思うことだけど、先日も、村上春樹氏のラジオを聴いて、初め、氏の喋り方や、その“間”に戸惑ってしまう自分がいて、いかに今の時代の話術やスピード感に毒されているのか思い知らされた。まるで、落語をもどかしく思ってしまうのにも似た、その感覚。もちろん、効率の良さは現代社会では重要事項ではあるけれど、それ自体に価値があるのではないということを認識していないと、本当に大切なものを見失ってしまうだろう。
作品の中で本人も仰っていたように、現代のピアノ演奏からすると、彼女のピアノは時代遅れとよく言われる。確かに、演奏技術において彼女より優秀なピアニストはいくらでもいるだろうし、表現力についても同様だろう(クラシックにおける表現力とは技術に裏打ちされたものだからだ)。でも、この映画を観れば分かるように、彼女は典型的なクラシックのピアニストではない。ノスタルジックな古き良き(?)スタイルで、その演奏は彼女の生き様や存在感ありきだ。だから、そこに価値を見出すことに異議を唱えても仕方ない。どちらが古典落語で、どちらが現代のお笑いなのかは別として。
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