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フジコ・ヘミングの時間のslowのレビュー・感想・評価

フジコ・ヘミングの時間(2018年製作の映画)
5.0
60代になってからブレイクを果たし、ピアニストとして超遅咲きのデビュー。80代になった今でも世界各地から舞い込むオファーに応え、精力的な活動を続けるフジコ・ヘミング。気が置けない友人、お気に入りのアンティーク、愛する動物達。彼女のパワーの源や人生の転機となった幾つかのエピソードを、美しい旋律と共に紹介し振り返るドキュメンタリー映画。
弛まないエネルギーと腐らない忍耐力。確固たる自分を持ちながら生きる様は逞しく尊い。劇中、フジコが子供の頃に描いた絵日記が登場する。これがとても良い。最近観た映画でモード・ルイスの描く絵にも感動したけれど、少女の残した記憶も負けず劣らず力強く可愛らしいものだった。本作はBGMとして流していても楽しめると思う。それくらい彼女の演奏シーンは多いし、絵日記を読むナレーションも耳心地が良い。

ピアノを触らなくなって、どれくらい経つだろう。数年前、久しぶりに鍵盤に触れた時、何のフレーズも弾き出せなかった。忘れてしまう、というのは寂しいことだ。プロともなれば、寂しいどころではなく、恐怖だろう。長年ピアニストであり続けるというのは、長年努力し続けるということ。本作ではそういう普段見せないであろう苦悩も垣間見ることができた。
もし、生まれ変われるとしたら、彼女は来世もピアニストになりたいと言うだろうか。もしかしたら、次は猫になりたいと言うかもしれない。ちょんちょんのような猫になりたいと。
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