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金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのmemoのレビュー・感想・評価

4.2
関東大震災朝鮮人虐殺事件のことを知ったのはつい最近で、今年3月、東北の地震の後にSNS上で外国人差別を煽るようなデマが出回ったときだった。1923年の大震災後とまったく同じことが繰り返されているという文を読んで気になり、調べたのだった。それまでこの歴史的な事実を知らなかったことも、有事があると差別や偏見を利用して煽る人たちがいること(人間のそういった心理的側面)にも、かなりショックを受けた。さらに歴代都知事が毎年寄せていた追悼文を、現都知事の小池百合子氏は就任してから一度も送っていないということも知った。しれっとなかったことにするのは一番ダメでしょう……

朴烈と金子文子、「犬ころ」という詩をきっかけに出会い、惹かれ、活動家としても私生活としてもパートナーになるのだが、朴烈に対等な立場と揺るぎない信頼関係を求める金子文子がかっこよかった。最後まで信念と誇りと愛を捨てず、「生きること」を貫いた情熱的なふたりの、抵抗と闘いを描いた物語。金子文子が獄中に書き上げた彼女の文章からは朴烈に共鳴した理由が垣間見える。どの社会にも所属することができず疎外されてきたからこそ、無政府主義者である朴烈の詩に惹かれたのだろうか。情熱的なふたりをさらっと、どこかあっけらかんとしたトーンで描いているのもよかった。

虐殺運動を扇動し、お互いに責任をなすりつけ、都合が悪くなれば必死に誤魔化そうとする日本政府の無責任な姿はコミカルに描かれており(最悪すぎて笑っちゃいけないのだが)あまりに情けなくて笑えてしまう。『博士の異常な愛情』みたいだった。

メモ:1923年の関東大震災後、朝鮮人が井戸に毒を入れたという嘘が流れ、日本政府は困民の混乱を抑えるためにこの嘘を利用して戒厳令を発令しようとする。さらに国際的に問題になるのを恐れ、正当化するために、アナキストとして活動していた朴烈を虐殺事件の標的にする。
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