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金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのmaricaのレビュー・感想・評価

3.8
ずっと観たかった映画をやっと鑑賞。布施辰治もがっつり出てきて一気に期待値があがった(布施辰治に憧れて司法試験受験生だった時代があったので…)。

日本の制作陣でないのに、かなり当時の日本をリアルに再現していたのではないか。関東大震災の描写も本格的だし(東京中の火災が原因で気温が46℃になったなんて知らなかった!)、震災後の朝鮮人虐殺事件なんて日本人がみんな知っているような事柄ではない(歴史の授業でもっとちゃんとやるべきだと思う)から、日本の映画やテレビとかでここまでハッキリ見せられたこともなく、「あー…申し訳ない」としか。

しかし、反日を煽るような作品では全くない。朝鮮(敢えてこう書くけど)の人たちは「敵は(日本の)民衆ではない」「(日本)国家としては腹立つけど、民衆にはむしろ親近感を抱いている」など、日本人に親しみを感じていて、一方でヘイトクライムを憎み、朝鮮の人たちの味方をする日本人が当時もいっぱいいたことを描いており、単に韓国—日本を善—悪という構造にしていないのが非常にフラットというか中立的で良い。朴烈たちの日常を見ていても、日本語混じりの韓国語なのが興味深いし、服装も着物や袴姿だったりなのも、当時はこんな感じだったんだなぁと勉強になる。
そして、朴烈たちは世田谷警察署に連行されていたけど、割と世田谷って左派的な人たちが集まるエリアでもあったのだろうか。井伏鱒二が『荻窪風土記』で「中央沿線方面には三流作家が移り、世田谷方面には左翼作家が移り、大森方面には流行作家が移って行く」と書いていたのを思い出した。

日本人役は日本人俳優にやってもらいたかった、という意見が目立つけど、韓国人俳優があれだけちゃんとした発音の日本語で日本人を演じるってすごいことな気がする(朴烈はだいぶ片言だが)。チェ・ヒソさんも立松判事役のキム・ジュンハンさんも日本に住んでいたことがあるっぽいけど、自然な話し方ですごい。不逞社のメンバーの何人かや裁判長なんか完全に日本人だと思ってたけれど、在日韓国人の方々だったんですね。あと水野大臣も日本人なのか韓国人なのかまったく分からなかった。どんな心境で演じたのかな、とかいろいろ考えてしまう。
違和感があるとすれば、文子が獄中でいつも立膝だったことだけど、朝鮮で育ってるからああなのかな。
朴烈が日本人に「2銭は2”じぇん”じゃない2”ぜん”だろ!」って言われるシーンや大臣の1人が読み上げた「震度7.9(実際はマグニチュード7.9)」ってところはミスっぽい。

2日続けての韓国映画だった。まったく意図していなかったけど、昨日観た映画もイ・ジェフンさんが主演だった。知らない俳優さんだったけど、これも何かの縁なので彼の作品を他にも観てみようかなと思った。
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