しちれゆ

金子文子と朴烈/朴烈(パクヨル) 植民地からのアナキストのしちれゆのレビュー・感想・評価

3.6
文子曰く「父には逃げられ母には捨てられた」無国籍児として育った文子は親族の間を転々としその間も両親は文子を顧みない。この生い立ちが文子の中に形作った暗渠のようなもの。政府を否定し天皇を否定し日本人の子供として生まれながら在日朝鮮人の中にしか居場所を見つけられなかった文子、一方 憎んで当然の日本にやって来てまで「人は天皇に″神になれ″と言う」と日本を憂い自らの思想に殉じた朴烈、2人の間には実は大きな差異があり、それを埋めたものが男女の性愛であると思う。平たく言えば思想バカの朴烈がまんまと文子に手玉に取られたというか(言い過ぎ?) 朴烈の人懐こい笑顔と文子の鼻にしわをよせてクシャッと笑うあざとさが対照的。この二十歳そこそこの文子には判事(キム・ジュンハン、良かった)もやられた。そして手に手を携え自ら死刑の道を選び取ったかのように見えた2人の最期が(ラストのスーパーによると)これまた予想とは逆の展開。文子の死の真相がどうであれ、朴烈よりも文子の方が自身を鼓舞し続けた人間であったに違いない。
朴烈が母親に見せたいと言ったあの写真を母親は見たくはなかったろう。それほどまでにあの写真は嬌態であると思う。
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