だいごろー

寝ても覚めてものだいごろーのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.5
@ヒューマントラストシネマ有楽町


傑作。濱口監督は商業デビューしても今までの濱口作品の要素(食事のシーンでの会話劇、演劇、夜明け、震災、乗り物等)を引き継ぎつつも、更に強固なものとしている印象を受けた。
また、映画の中で演者が成長していき、最初と最後で違う印象を受ける、魅力を観客が再発見するというハッピーアワーでの経験が、今作でもヒロインの唐田えりかにも重ねられた。東出昌大もはまり役で、この二役演じられるのは彼しかいないと思った。

唐田えりか演じるヒロイン朝子の前に現れた麦、そして数年後に全く同じ顔をした亮平が現れる。そこでヒロインの心が揺れていく…というようなストーリーでいわば恋愛映画的な宣伝のされ方をしているけれども、観た人によってはホラーと捉えられかねない。
濱口監督が繰り返し問題提起してきた恋愛における暴力性が今作でも提示されたように思える。
相手の自由を奪う、思考力を低下するという面において恋愛とは暴力と同義であるというのは同監督の『親密さ』でも取り上げられていた。
麦に対する朝子の思い、そして後半の行動は一般的なところからは大きく外れた非常識、許されないこととして観客の目には映るだろうが、それも恋愛の1つの側面であるとは言えるだろう。

なので、一般的な恋愛映画を見慣れた人は"共感"至上主義的なところがあるので、今作を見たらまず憤慨するだろうな…あと、今ある幸せが盤石な基盤で揺るぎないものだと信じているカップルなんかがこの映画をデートムービーに選んだりしたらまず危ない。
それだけ、我々の恋愛観や人生観を大きく揺さぶるだけの強度がある映画だと思った。

そういったテーマだけでなく、信じられないような美しいショット、映画でしかありえないような映画的なシーンが満載で凄いです。
特に好きなのは2つのロングショット。1つは夜の高速道路を走る車を俯瞰で撮ったシーンで、目の前の数メートルのみを光が照らす美しいシーンだった。
もう一つは雨が降った後に、走り出す2人を追うように陽の光が広がっていくシーンは心底感動した。

海を見つめる朝子の力強い目、走り出す2人、そしてラスト見つめ合うのではなく同じ方向を向く2人で物語は終わる。この一連の流れがたまらない。ため息しか出ない。

間違いなく、濱口監督は今観るべき監督の1人です。今度キネカ大森で濱口監督特集があるので観たことない人、今作で気になった人はぜひ。
親密さ、ハッピーアワー、PASSIONあたりがオススメです。