岡田拓朗

寝ても覚めてもの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.6
寝ても覚めても

愛に逆らえない。
違う名前、違うぬくもり、でも同じ顔。
運命の人は二人いた。

2015年に「ハッピーアワー」がインディーズ作品ながら国際映画祭で数々の賞を受賞し注目された濱口竜介監督の商業映画デビュー作。第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、世界20カ国での配給も決定している作品。

(まず冒頭からやられた。意思を持った行動が生んだ奇跡的な出会い方。ここからぐっと心を掴まれる。
さらに音楽がかかるタイミングがしっかり転換期となっていて、意味を成していた。)

寝ても覚めても消えない愛。
朝子の生きている世界が現実か夢かわからなくなるような日常に相反する彼女の表情と行動。

愛と愛情を受け手として捉えることで(それもそこにも気づいているかがわからない)、そこから来る優しさへの甘え、をこんなにも綿密にしっかりと描き切った作品を観たのは初めてだった。
しっかりと対比として描かれるそれらをラストにやっと気づかせるような形で落とし込んでくる相当に秀逸な作品だった。

与えられているだけなのに与えていると勘違いして、いつのまにか特別な2人の日常を自分の都合のよい当たり前の日常に変えてしまっていて、(とてつもないことを起こしてしまってから気づくのは遅いけど)、夢と現実の狭間で起こるような幻想的なそのいっときから来る感情の高鳴りと揺れ動きに、そして愛に身を委ねてしまう。

なぜ人はそのときを特別な日常として噛み締めながら生きることができないのだろうか、なぜ大切にしたいはずなのにその人が一番して欲しくないことをしてしまうのだろうか。
結局まだ自分の中ではわからないが、今作では愛と感謝の違いを比較しながら、愛に逆らえない行動を起こす朝子(唐田えりか)を描くことで、監督なりの答えを出しているような気もする。
感情や衝動に勝てないのも人だからこそで、第三者からでは決してわからない何かがそこにはあった。
誰もが自分のことを大切に思ってくれる人を傷つけたいわけがないのに傷つけてしまう。
それが辛い。

常に自分のことしか考えて生きられなかったことを様々な人との改めての会話から悟っていく朝子。
そのとんでもなさを知ることで、謝って許されることでないことを知り、朝子にとって本当の大切な人(東出昌大)のためにも生きようとすることを誓い、それを信じることまでいかなくても受け入れた形に昇華される愛の形はまた新しく、そんなラストが光景と連動してとても輝かしくて美しく、余韻に浸れた。
今作のラストシーンは、ここ最近だとベスト級。

中には朝子に感情移入できずに苛々が募るひともいるだろう。
愛とはそれほどに厄介で、置き場がない愛はわだかまりとして残り続け、心や頭のどこかに常にいて、でもよくわからない感情で、だからこそ抑えていたものがいきなり爆発することがある。

大半はマヤ(山下リオ)のような考えに至るだろうが、朝子のことと朝子から麦への愛を見てきて知ってるからこそ春代(伊藤沙莉)はそうなることを想像し、そうなるかもと半ば受け入れていた。

ここに朝子と麦と亮平だけを描かない意味が生まれているのだと思う。
このような置き場のない過去の恋愛から引きずる愛は、その過去やその人を知らないと決してわかり得ないものである。
むしろマヤは完全に亮平に感情移入をしていたこともあり、それはああいう反応になるだろうと。
朝子を軸に、色んな立場や目線から見ることで、こんなにも考えや見方が変わってくる。
それも今作の見どころである。

愛とは何か、愛することと優しさに甘えることの決定的な違い、信じていた人に裏切られたときの絶望感とそこから来る怒り、満足しない現状から来る他者への嫉妬とそのみっともなさ、弱さを受け入れたときに見えてくる新しい世界、その人をその人たらしめる要素とは何か、様々な考えを持った人たちの共存から来る多角的視点、日常の大切さ、自分のために優しさや安心感を与えてくれる人を大切にすること、伝えるべきことは伝えること、優しくしすぎて依存されないようにすること(お互いのためにも)、何でも許しすぎないこと、与えないと伝わらない愛や信頼…誰かと生きていく上で、必要な色んなこととそれに反する行動の矛盾が詰まって、最終的には何かわだかまりが残りつつも美しい。
そんな名作であった。

P.S.
それぞれのあの性格があるからこそ成り立つのが今作だった。
その中でも、朝子に唐田えりかを選んだのがかなりの挑戦でもあり、絶妙な感じがした。
あえて感情をわかりやすく表現せずに何を考えているかわからない。
不思議な要素を持ち何か魅力がある中で、ふわっとしてるが、自分の軸はしっかり持っていてそれに従って顔に表れず一直線に行動するから次の行動が読めない。
現実の中で出てきそうな非日常な世界観もよかった。
また、光景が綺麗だった。
大阪があんなに綺麗だなと思ったのは初めてかもしれない。
昨日のSUNNYに続き、関西にスポットライト当たるのは嬉しい!
岡田拓朗

岡田拓朗