マクガフィン

寝ても覚めてものマクガフィンのレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
4.2
男と女の恋愛観、何気ない日常と突如訪れる非日常、個性や主体性を排除する現代日本の価値観などのラインを揺さぶりに唸らされる。原作未読。

何気ないな日常から、ヒロインの恋人が突然失踪した喪失により、主体性を排除して、個性と引き換えに自己喪失感を隠すことに。日常から突如訪れる非日常を繰り返すことが上手く、終盤に呼応することが効果的に。大阪オバちゃん風な伊藤沙莉のコメディエンヌぶりと、人間関係のギクシャクさに無関心なマイペースな猫がアクセントになり、テイストのバランスを整えることが上手い。

川の増水が伏線になっていたので、何かあると思っていたら、終盤の突飛な展開に唖然とさせられる。手を差し伸べる日常と非日常が交差するシーンが秀逸で、背筋が寒くなるような怖さは緩急が凄すぎて着地できるか心配する程に。また、行動に思想や理屈がなく、衝動に駆られる模様に唸らされる。頭では整理しているつもりでも、簡単に揺らいでしまう人間の感情の不条理さが何とも言えない。大地震発生時に会社に戻ろうとすることや、交通網が麻痺して動くはずもない電車に向かったりする描写が効果的で、整合性が共わない行動をする社会で、個の人間の不条理さを非難できるか考えさせられる。

ラストの河川敷からのシークエンスも凄く好み。同じ場所で一緒に見たとしても、男と女の風景は違う。結局、相互理解なんて簡単にできるものではなく、自分自身も相手も尊重して受け入れる、相互尊重の大切さを切に感じる。氾濫する河川を作品全体から想像させ、決して平坦ではない人生を歩み始める男と女に何とも言えない感情が湧きおこる。