賽の河原

寝ても覚めてもの賽の河原のレビュー・感想・評価

寝ても覚めても(2018年製作の映画)
5.0
ただただ見事。傑作でしたね。
ちょっと事件だと思いますし、もっと話題になってないとおかしい作品だと思ったんですけど、何より打ちひしがれるのは「なぜ素晴らしいのかをほとんどまともに言葉に出来ない」ということですね。
例えばインターネッツには本作のモチーフで使われてる牛腸茂雄やチェーホフやイプセンを説明しながら、本作の筋といかに効果的に呼応しているかなんてことを説明しているレビューなんかも存在しますけど、そういうのはあくまで作品そのものの素晴らしさに付随する奥行きというべき何かですよね。非常に勉強にも参考にもなるけれども、それは本作の本質的な素晴らしさを捉えているとは言えないように思えてしまう、という...。
もちろん、オープニングの「勝手にふるえてろ」のあるシーンを思い起こさせるシーンの素晴らしさですとか、「お好み焼きパーティーってマジ最高だな」っていうとこだとか、中盤に暗転して起こる出来事の禍々しさの演出が良かったり「なぜ高速道路をクルマが走っているだけのショットがここまで面白いのか」、終盤のロングショットが奇跡的に美しい件だとかっていうことには言及したいシーンもホントに盛り沢山ですし、役者の演技の面だって素晴らしいのは勿論、tofubeatsさんの音楽が異常なまでに素晴らしいとかも色々あります。
そういう色々な要素を敢えて排して、本作の根源的な魅力は何か、ということを考えるならばおそらく「全てのカットが映像として面白い、惹きつけられる、緊張を強いるつくりになっている」ということなんじゃないですかね。めんどくさい感想ですけど。
だってね、ぶっちゃけこの映画のストーリーって普通に興味深い話ではありますけど、全然新しくないですよ。
「女が男と大阪で付き合う。むちゃくちゃ恋に落ちるが、ある日突然男は忽然と姿を消す。数年後、女は東京に行くがそこで女は姿を消した男とうり二つ、それでいながら別人の男と出会い、戸惑いながらも惹かれていく」という話、まあ映画としてはありそうな話ですよ。でもこの話、別に映画としては普通の話なのでいくらでもつまらなく撮れそうなのに、2時間釘づけにさせられるのはどうしたって「映像が素晴らしいから」としか言いようがない。
全てのカットが的確で、演出も的確。それでいてどこか、陳腐な言い回しにはなりますが、不穏さや不安感がある。光量や映像の質感はどこかホラー映画的ですらある。何か決定的な何かが起こりそうな不安定さがずーっと低音で響いてる。だからこそ実際に「何か」が起こるとすごくカタルシスがある。
「テメー、何言ってんだ?これだから映画好きはキモいんだよ。」という感じですけど、本当に素晴らしい作品でしたし、もう一回観て観ないとまだ感想がまとまりませんわ...。
正直、私はいつも割と映画の筋とかお話の方ばっかり色々気にして観てしまうタイプなんですけどね、本作だってお話的に言えばそういう「この展開は倫理的に受け入れられない」とかなってもおかしくないと思うんですよ。それでも全くそういうのが気にならない。映像の質の部分のプラスの大きさで、大満足しちゃいました。
すっごく面白い映画だったんですけど「高校生に話すか」と言われれば、おそらく話さないと思うので、そういう意味では「誰が観ても面白い映画」ではないようにも思えますけども、これは最高でした。
自分に刺さったわけでもない、エモさで殴られたわけでもない、それなのに「これはすげぇ...最高だ...」っていうのはなかなかないですよね。
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