オダヤカ

さよならの朝に約束の花をかざろうのオダヤカのレビュー・感想・評価

4.8
タイトルすらうろ覚えの中観に行きましたがとても完成度が高かった。
近年日本の劇場版アニオリ映画の中でトップレベルの構成力を持った傑作だと思う。

後半ネタバレっぽいことも書くので気にする人は戻ってね。

設定の業が深する
全てが時限爆弾の様にいずれ綻びを生むという人間心理を知り尽くした設定は岡田麿里の本領発揮というところか

映像が良い
明暗や境界や色彩、下手上手、上下の使い分け等かなりのこだわりを感じ映像で演出している部分が多かった。
序盤の人間関係を言葉でなく全て映像で表現していた時点で信頼しかない。

これ観た人はクリムというキャラクターが嫌いすぎると思うんだけど、これって閉じた自身の理想の世界だけを愛して変わっていくものを受け入れられない謂わば深夜アニメオタクみたいな人間へのカウンターとして機能しているんですよね。自分の理想に相手を閉じ込めることを厭わない人間の象徴。
初恋の炎をいつまでも忘れられず松明に炎を灯しながらレイリアに迫り、相手が変わってしまったことを悟ると全て終わらせようとする。
そんなキャラクターだったからこそ最期の「どうしてお前たちは進み続けようとするんだ」みたいな台詞が最高に活きる。

クリムと対照的だったのがエリアル
成長してマキアへの想いが爆発しそうなエリアルに対して、マキアはその想いを拒絶しエリアルに灯った炎は一瞬で布に覆われ掻き消されてしまう。
エリアルは掻き消された想いと離別し自分の家族を作ることを選んだ。そして自分の新しい物語を進むことを選んだエリアルはクリムと対照的な結末を迎えることが出来た。
そんなエリアルを看取ったマキアが掛けてあげた布はかつてエリアルの炎を掻き消した時の布でありマキアはその想いをちゃんと覚えていた。それはエリアルが真に報われた瞬間だった。

レイリアがやっと再会することが出来たメドメルを、望みであった抱きしめることすら放棄して飛び立ったのは忘れてもらうため。
一緒にはいられないことを悟り忘れ去られることを選んだレイリアは抱きしめる訳にはいかなかった。抱きしめたらその感覚が残ってしまうから。
しかし触れられずとも忘れないと言ったメドメルの気持ちはレイリアの意思を超えて残り続けるし、マキアがレイリアを救い私が覚えているからと誓うことでようやくレイリアにも救いが訪れた。

で総括するとアニメ的な偶像性を強調するファンタジーな世界を通して現実世界の人間が進むためのメタ構造になっているし、離れ離れになっても想いは引き継がれていくという文化的系譜の継承の話でもあるので大好きだ。
こういう作品が閉じたコンテンツを良しとするきらいのある深夜アニメ畑の製作から生まれたことがなにより嬉しいですよ。
オダヤカ

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