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さよならの朝に約束の花をかざろうのaroのレビュー・感想・評価

3.9
冒頭の空を飛ぶシーンで映像の美しさに持ってかれました。

建造物、自然、水、光、雪、終いには街に降り注ぐ灰すらも美しく思えてしまう映像で、終始背景の世界観に目を奪われました。

数百年の寿命を生き、老いることも知らない(少なくとも作中に老人の描写はない)別れの一族。

イオルフというワードはきっとエルフからきてるんだろうし、軸になる設定はわかりやすいんだけど、そこに付随する要素がなかなかスッと入って来ない部分もあるので、それぞれのキャラが葛藤の末に抱く気持ちの方向や決断など、なかなか共感し難い部分や、気になってしまう部分も多いのだけれど、結果的には普遍的な家族愛の部分でとても心に響いた作品。

さよならの朝にあたるであろう終盤のシーンは、何故か『おおかみこどもの雨と雪』の別離のシーンを思い出した。

去っていくのは親なんだけど。笑
我ながらああいう演出には滅法弱いなと。笑


それ以外の要素でも、共に育った3人のそれぞれに過ごした時間の対比とそこに起因するすれ違いが本当に歯痒くて、あるべき生活を奪われたことで手にした新たな暮らしを必死に守ろうとしたマキア、奪われたあるべき生活を取り戻すことを正義と疑わず、奪われた時間の延長線上を生き続けたクリム、どちらの暮らしでも奪われる側となってしまったレイリア。

その中でも最後まで救いのなかったクリムは見ていて本当に苦しかった。

きっと軸になるのは母としての視点ってこともあるからか、男性キャラクターの描かれ方が若干ぞんざいだった様に感じてしまった。


作中に多数出てくる花の描写の中でも一番印象的だった蒲公英、調べたら蒲公英の花言葉には愛の信託、蒲公英の綿毛には別離という意味があるそうで、約束の花というのは蒲公英のことなのかなと思った。

タイトルに組み込むならもう少し約束の花にわかりやすい存在感があって良い気もしたけど。笑

母は強し、そして作中に出てくる男達を見て、母にとっての"子"の優先度ってのは男の理解できる範疇にないのだろうと思った。


最後故郷に戻る2人、レナトと共に飛び立ったシーンの時点では長老が序盤で告げた一族の禁忌に触れた2人は、その経験を経て、また別れの一族としての在り方へと戻るんだと思った。

描かれてはいないけど、きっと長老にも一族以外の人間を愛し、"本当の1人になる"経験があっての助言だったのだろうと個人的には解釈してたし、それをマキア達も身をもって感じて、一族の在り方を受け継いでいく……みたいな終わり方でも個人的には全然良かったわけなんだけど……。

マキアの「大丈夫、絶対に忘れないから。」のセリフで 、 あっ、これ違うんだと思い、マキアとエリアルの二度目の再会であり、本当の別れのシーンからのその後のバロウの「新たな別れと出逢いに行こう」みたいなセリフで、マキアとレイリアの過ごした時間が別れの一族の在り方に変化をもたらす結果になったんだと。

エンドロールの終わりに、イオルフの民に混じって1人赤髪の子がいるのを見て、辛いだけじゃない別れに出逢えたことで生じた変化が端的に描かれている気がして、なるほどそれもありだと1人納得。笑


エンディングの『ウィアートル』という曲も、手嶌葵を思わせるような素敵な曲でした♪
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