垂直落下式サミング

アルファ 帰還(かえ)りし者たちの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.8
お犬様と人間の出会いは、凍てつく二万年前のヨーロッパ。でかかわいいのは、チェコスロバキアンウルフドッグっていうらしい。立ち耳、狼のような顔だち、ふさふさした垂れ尾で、全体のフォルムはもふもふしている。
氷河期を舞台に、狩りの最中に崖から落ちて仲間に置き去りにされた少年と、同じく怪我をして群れから見放された狼が、自然の脅威にさらされながら故郷を目指す。サバイバル・アドベンチャーの様相。
ストーリーで印象的なのは、みんなで野営し焚き火を囲んでいる最中に、仲間のひとりが音もなく忍び寄ってきた捕食者にやられて、悲鳴だけが闇の奥に遠ざかっていくシーン。古代の狩りとは、知識や経験の有無に関わらず、誰もが常に生命の危機に瀕する環境だったということがわかる。何回も狩りに行って生き残ってきた大人たちだが、ただ単に今まで運が良かっただけでしかないのがリアルだった。
武器の習熟とか、勇気があるとか、肉体が屈強であるかとか、そんなもんは関係なく、自分より肉体的ポテンシャルの高い生物にやられれば死ぬと、野性の残酷さがわかる。でも、猟犬も同行する来年からは、匂いでいち早く危険を知らせて犠牲を防げるかもしれない。このエピソードの選定は、何気にうまく物語のテーマと接続している。
過酷な自然のなかで人間と犬の起源を描きながら、家に帰るまでの物語を描ききっていて、ロケーションの説得力でストーリーが途切れない。一人と一匹が並んで歩く場所は、どこを切り取っても絵になるくらいのスケール感。
愛犬家御用達のイッヌ映画であるため、人間社会の都合で野性を奪ってしまう動物調教の罪については言及されないのが惜しいところ。そこんところは、過酷な古代の環境を生き残るための共存であるし、投げた棒を取ってくる賢さを見ていたらどうでもよくなってしまうので、まあいいか。
生き物が人間に心を開いていく様子、部族のなかに新しい価値観をもたらす主人公、相棒と強固な友情と主従関係が結ばれるラストなど、これらに既視感があったのは、『ヒックとドラゴン』がアニメなのによく出来すぎていたからだと思われる。