Hally

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のHallyのレビュー・感想・評価

4.2
"魔法の国"でもパステルカラーを塗りたくっても隠しきれない現実。

"魔法の国"ディズニーワールドの近くにあるモーテルで生活する"隠れホームレス"の生活を6歳の女の子の目線を軸に描く。カラフルな画と"魔法の国"が近くにあるという事実が厳しい現実を際立たせる。無邪気な子供たち目線での撮り方やモーテルの構造を意識させる撮り方、夕日だったり花火(恐らくディズニーワールドで上がっているもの)などの風景的な撮り方。その中に貧困や犯罪などの現実の落とし込みが非常に巧み。尚且つそれが分かりやすい。ラストシーンも上手い。テンポが変化してから2人を追いかけ続けていたカメラが"魔法の国"を象徴づける建物にフォーカスを移す(オープニングで映されるモーテル:Magic castleと対比しているのかな?)2人はそちらへと走って人混みへと消えていく。現実を見せられてきた観客に魔法をかけ解放する。まさに映画的といえるのではないだろうか。でもその魔法はとてつもなく切なくて…。彼女がこの先歩む険しさを私たちは分かるから…。あの瞬間の魔法が現実を一瞬隠してしまったようで同時に隠せていない事、私たちが無力で何もしてあげられないこと理解させられるから。泣いてあげることしかできない…。個人的にラストシーンに関しては、劇中子供たちの行動を描くシーンにはほとんどBGMがなかったのに対しラストは音楽が流れ出してテンパが変わる。少し急すぎて違和感を覚えた…。ちょっと雑に思えてしまった。あそこまで強引にやるからこその部分もあると思うのでこれは好みの問題だと思う。なによりその後のエンドロールが良すぎて吹っ飛んだが。ディズニーランドを意識させる音楽が全く流れない劇中に対してエンドロールで使ってくる辺りに非常に心震える。ディズニーランドに行ったことある人なら尚更。夢と現実を意識させてめちゃくちゃ上手い。あのエンドロールだけでラストシーンの引っ掛かりをカバーしてくる。

今作においてなにより目立つパステルカラーが"インスタ映え"の役割を果たしながら、それ以上に現実を塗り隠すという側面としてはっきり描かれるのが印象的だった。傷ついたり、剥げたりした壁にパステルカラーのペンキを塗るという行為がそれを暗示させる。そこのシーンで子供たちに危険が忍び寄るのだからその役割は明らかだろう。

ウィレム・デフォーはさすがだった。悪役のイメージが強い印象だったが、叱りながらも愛情があって、助けてやりたいが助けられない事をもどかしく思ってたり表情が絶妙だった。基本的には現実世界に毎日ドキドキワクワクしてる子供の目線で描きながらも現実に苦しむ母親の目線、現実を受け入れながらももどかしく思っている支配人の目線もしっかりあるから凄い。特にホテルの食事シーンは母親目線だろうし、それがこの後の展開を匂わせる。だから抱きしめられた時に複雑な表情を浮かべたのかと合点がいくし、児相がきた時に当初は抵抗しない訳で…。更に子供は馬鹿じゃないって事をしっかり描いてる。子供だからこそ見える、感じれるポイントがあり、大人の事をよく見てるって事もしっかり描いてる。凄いよ。全てをカーバーしつつとっても映画的で。完璧。

色々と考えさせられた。声なき者たちに焦点を当て、現実を真正面から尚且つ受け入れやすく描いた作品。
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