Inagaquilala

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.9
全編iPhoneで撮影した「タンジェリン」で話題を集めたショーン・ベイカー監督が、今回は35mmフイルムで撮影に臨んだ、6歳の少女ムーニーの日常生活の冒険を描いた作品。カメラワークや役者の捉え方など、ドキュメンタリー風に撮影されてはいるが、ベイカー監督独自のカラフルな色彩感覚で全編が彩られており、それはまるで6歳の少女の眼から覗いた「現実」のように映されている。

フロリダのディズニーワールドの近くにあるモーテル「マジック・キャッスル」。建物全体が紫に塗られたこのモーテルに住むムーニーとその母親のヘイリー。彼女たちは、サブプライムローンの住宅危機の犠牲者なのか、1週間ごとに宿泊料を払わなければいけないこのモーテルに住んでいる。ムーニーは、近くの同年代の子供たちと、悪戯をしたり、近所をうろつき回ったりするのが日常だ。彼女たちが歩き回るフロリダの街は、もちろん光に溢れているが、そこに建てられた店や住宅は、まるでテーマパークの建物のようだ。

この映画のロケセットのような街で、彼女たちは奔放に毎日を過ごしている。カメラはそれをドキュメンタリーのように、彼女たちを画面のなかで遊ばせながら撮っていく。普通の劇映画に慣れた眼には、これはかなり新鮮に映る。ムーニーの母親であるヘイリーは定職を持たず、食べ物は施しであったり、モーテルの宿泊代も滞りがちだったりしている。いわばどん詰まりの生活のなかで、なぜか少女のムーニーは自由闊達な毎日を送っている。作品中に、何回か彼女がバスルームで遊ぶ姿が映されるが、これが実は物語の展開点ともなる、ある事件を仄めかしている。

全体的に物語には冗漫な展開を感じたのだが、ジョエル・メロウィッツの写真のような、妙に湿度を感じるカラフルな映像で最後まで寝落ちするようなことはなかった。iPhoneで撮影したというラストシーンからは、いろいろなことも考えられるのだが、結局そこへとたどり着くのかと、やや自分的には納得のいかないものを感じた。モーテル「マジック・キャッスル」の管理人ボビー役を演じるウィレム・デフォーがなかなか良い。第90回のアカデミー助演男優賞にノミネートされたのも肯ける。
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