カツマ

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のカツマのレビュー・感想・評価

4.1
子どもにはどうしても大人にならなければならない時が来る。まだ子供たちが夢の中にいたとしても、強制的に現実という名の夢魔が襲いかかって来て、あのカラフルな時代は懐かしい過去になって宝箱のなかに仕舞われる。
それが分かっているからこそ、あのラストシーンはあまりにも素敵だった。今後映画を見ていく上で、あんなに素晴らしいラストシーンに果たして何度出会えるだろうか。子供たちの無邪気な笑顔が見終わった後にはこんなにも懐かしい。ただ、はしゃいでいただけの毎日が、今では魔法のように煌めいていた。

そこはフロリダ州の紫色のモーテル、その名もマジックキャッスル。そこに住む6歳の女の子ムーニーは近所に住む子供たちと、走り回るように無邪気な毎日を送っていた。
ムーニーの母ハリーは売春で小金を稼ぎ、家賃の支払いに当てていたのだが、ついにはお金が底をつき始め、家賃も払えなくなってくる。モーテルの管理人のボビーは何かと二人の世話を焼くも、ハリーの横暴な態度には毎回辟易とさせられていた。
そんな大人たちの事情をよそにムーニーの世界は楽しいことばかり。ある日、近くの空き家に忍び込み、暖炉に火をつけて放置してしまい・・。

この映画はほとんどが35mmフィルムで撮影されているが、あるシーンだけはiPhoneのカメラで撮られている。『タンジェリン』をiPhoneのみで撮ったショーン・ベイカーは、そのとても大事なシーンの目線と視線を子供たちの等身大に合わせることに成功している。

この作品はこの世の片隅でもがきながら生きている人たちに色鮮やかな色彩を付けてくれた。そこに例えドラマチックが無かったとしても、映画とは市井の人を物語の主人公にしてくれる。心優しき観察者でもある管理人をウィレム・デフォーが好演。そこには優しい人たちがいて、母娘は決して孤独では無かったのだと信じさせてくれた。
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