ナガノヤスユ記

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のナガノヤスユ記のレビュー・感想・評価

4.6
やってくれましたショーン・ベイカー!
相変わらず脚本がすばらC。
貧困は不遇だし、改善されるべき状況には間違いないけど、それ自体が人間の不幸を決定づけるわけじゃない。貧困を取り巻く環境の如何が人に苦況を強いるのだ。
快楽の隣に苦痛が、善意の隣には悪意が、世界一有名な遊園地の隣には貧困街がある。これらは二律背反じゃない、渾然一体としたこの世界そのものなんだ、という真正のネオ・リアリスモの系譜。

そんなクラシカルな原点を彷彿とさせるのが、職務と人情のジレンマに悩むモーテル管理人。幼児性愛者にサイダーを買わせるくだりが1番生き生きしてたのは否めないけど、何気にデフォー様新境地じゃないでしょうか? 共用部への荷物放置を注意しろとオーナーにせっつかれるウィレム・デフォー、泣ける、泣けるよ。アカデミーノミニーも納得。

子どもたちのすばらしさは言うまでもない。5頭身の身体に既に人生の表を察したような佇まいをやどして、異次元の世界を求め歩きまわる。誰だよ、あの暑さにうだるようなフロリダ流ウォークスタイルを教えたのは。見れば見るだけ癖になる。
ブルックリン・プリンスちゃん、とにかくすごい。刃向かうもの全てに吠えかかり、ちびっこギャングをはるか超えて、ビッグママのごとき貫禄を随所に見せておきながら、ラストのアレはズルすぎる。御歳28の僕も子どものように泣いた。

ムーニーの母親ヘイリー役のブリア・ヴィネイトはショーン・ベイカーがインスタで発掘した素人だという。多くの人、とりわけ日本人は、ああいう母親像を決して受け入れないだろうと予想されるが、そんな手前味噌な裁断こそまさしくファックだ。使用済生理ナプキンに埋もれてくたばればいい。貼りつき方神がかってたけど本当にあんなきれいに貼りつくものなのか、試したいが試しようがないのが悔やまれる。

『タンジェリン』を全編iPhoneで撮りおおせて名をあげたショーン・ベイカーが、35ミリでどんな画を撮るのか気になっていたけど、こちらも良きでしたね。フロリダは地理こそ東側だけど、西海岸的な陽光の雰囲気と通ずるものがある。そういえばハリウッド映画もすっかり色温がブルー寄りのクールな画作りが多くなり、そもそもハリウッドが映画の街になった理由なんてとうに忘れ去られてしまったような昨今、こういう映画が見られる幸福をしっかりと噛みしめたい。
ありがとうございます。