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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のpanpieのレビュー・感想・評価

4.5
私はディズニーランドに一度も行ったことがない。
このご時世で天然記念物ものだろう。
娘の小さかった頃に行く計画を立てていたのに理由は忘れてしまったが何かの理由で流れてしまった。
娘は修学旅行で行ったのでもういいと言うので益々私は死ぬ前に一度も行かないかもしれない。
あの底なしに広がる夢の世界とミッキーマウスの声が正直苦手だ。


フロリダのディズニーランドの裏のパステルカラーの淡い紫色に包まれた安モーテル、マジックキャッスルが舞台。
髪をグリーン?ブルー?に染めてどう見ても20歳そこそこの母親ヘイリーと就学前位の女の子ムーニーの母娘はこのモーテルで週に一度家賃を払い暮らしていた。
母親は定職に就けずやることなすことが危なっかしい。
娘は同じモーテルに住む同じ位の年頃のスクーティと隣のモーテルに住む男の子と三人で日々イタズラを良く言えば冒険を繰り返している。
この一帯のファンタジックな色合いの建物がまるで魔法の様にムーニー達を彩りこの楽しい日々が永遠に続くと思っていた。
ヘイリーはムーニーを良く言えば自由に、悪く言えば放任している。
ムーニーが何かしてもヘイリーは母親らしく叱ったりする事もない。
それでもムーニーは毎日何処かでイタズラを繰り返しモーテルの支配人ボビーはまるで父親の様にその度に叱る役回りだ。
ある出来事をきっかけにムーニーの楽しかった日常に次第に暗い影が忍び寄ってくる。




↓ここからネタバレあります。↓





なんて危なっかしい親子なんだ!
日本じゃまず有り得ない。
いや、現代では日本も有り得るのかもしれない。
私の子供の頃は何しろ親だけじゃなく周りにおっかない大人が多かった。
何かやろうものなら知らないおじさん、おばさんに怒られたのを覚えている。
私はモーテルではないけどボロアパートで育った口だが幼い日アパートの陰で火遊びをしようとしてしこたま怒られた事を思い出した。
知らないおじさんも父も母も皆怖い顔をして大声で叱られ恐らく家に帰ってからお尻ぺんぺんされた筈だ。
あの時は怖かった。
好奇心からマッチで紙くずに火をつけようとした事よりも叱られた事の方が余程怖かったのを覚えている。
勿論その日を境にマッチを触る事はなかった。
ある日の冒険で訪れた廃モーテルでヘイリーが友達の男の子に「マッチある?」って聞いた時あの時の自分ももれなく思い出した。
ああ、ダメだよ、ヘイリー!
火事になっちゃうよ!
…そしてそのままにして帰ってきてしまった。
映画を観ていた私はずっとハラハラしていたがモーテルに帰って来たムーニーが遠くに黒い煙が立ち上っているのに気付いた時は鳥肌が立った。
やっぱり…
何も気付かないヘイリーは火事の現場にムーニーも連れて行き燃え盛る廃モーテルをバックにムーニーの写真を撮るのだが当たり前だが火を付けた当の本人の顔は強ばってニコリともしない。
様子のおかしい我が子に気付いた スクーティの母親アシュリーとは逆に全く気付かないヘイリー。
普通の母親なら子供の様子を見て気付く筈だ。
カメラは淡々とムーニーの目線で進み続ける。
どんな場面もヒリヒリした。

何度もムーニーが湯船に浸かっているシーンが続く。
彼女自身は楽しそうに人形やぬいぐるみにシャンプーしたりして遊んでいるのだがバックには不自然なくらい大音量で音楽がかかっている。
一度目はその意味に気付かなかった。
それが何度か続きまさか…と嫌な予感がした。
何度目かに見知らぬ男がバスルームに入って来て「子供がいるじゃないか!」と怒鳴っていた。
何も知らないムーニー。
ママの言いつけ通り部屋には入らずお風呂で遊んでいたんだね。
胸が痛い。

ダイナーで働くアシュリーは息子のスクーティの面倒を見て貰っていたからかヘイリーとまだ仲の良かった頃ムーニー達は裏口からパンケーキをお昼に貰って食べていたがあの出来事から疎遠になってしまいスクーティとも遊ばなくなってしまった。
ヘイリーは何故階下のママ友の態度が冷たくなったのか全く分からない。
ヘイリーのイライラは続く。
食べ物も貰えなくなっていよいよお金がなくなってきた。
定職もお金もない若い母親はお金を稼ぐには売春するしか道はなかったのかもしれない。
気前よく家賃を滞納せずに払うヘイリーに「仕事をしてるのか」とボビーは問いただすがそれは幼いムーニーをその間どうしてるのか気にかかっての事だ。
皆が手を焼くイタズラっ子ムーニーを彼なりに気にかけ可愛がっているのが分かる。
やっぱりデフォー良かったな。
凄く良かった。

アメリカは親がネグレクトしてると通報するのが早いと言うか日本より流石に進んでると思った。
通報されるタイミングだと分かっていても通報しないでと私は願って観ていた。
無関心な現代の日本ならこの程度なら通報されないかもしれない。
逆に日本ではもっと深刻な所まで進んでしまってから発覚する事の方が多いのではないか。

これは虐待なのか。
ヘイリーも彼女の出来る範囲でムーニーを必死に育てているだけなのかもしれない。
ムーニーの視点で描かれているから子供にはこれが虐待に当たるとは彼女は微塵も感じてなくてママを愛していてただ一緒にいたいと叫ぶラストは辛かった。
当たり前だ。
どんなママでもママはママであって子供はママが大好きなのだから。
福祉局の女性の静止を振り切って駆け出すムーニー。
駐車場を掛けて行く彼女の後ろ姿を私も後から追っかけているみたいに車が飛び出してきて事故が起きるのではないかと観ていておろおろした。
隣のモーテルに住む友達の女の子ジャンシーに別れを告げに行った時ムーニーを演じたブルックリン・プライスちゃんのポロポロとこぼれ落ちる涙があまりにも自然すぎてラストで思わず私ももらい泣きした。
ラストの夢の国が切なかった。
ラストで急に襲ってきた自分の涙を抑えられず無音のエンドロールがあっという間でムーニーとヘイリーのその後に思いを馳せた。


確かにヘイリーは普通の母親じゃなかったけどムーニーを愛していた事は間違いなかったしイライラして子供に当たり散らす事は決してなかった。
いつもの私なら母親らしからぬヘイリーを責めて許せないと思うに違いなかったけど何故かヘイリーを責められないと観終わった後感じてしまった。
アメリカの母子家庭の貧困も深刻なんだな。
夢の国の裏側で生活している人達は皆生きる事に必死だった。
家賃は月に一度払うのが当たり前だと思っていたしモーテルに住み毎週家賃を払っている家族がなんと多い事か!と驚きを隠せなかった。
そしてショーン・ベイカー監督は淡々と撮影するだけで母親になりきれないヘイリーやイタズラを繰り返すムーニーを決して責めたりはしていない。
今作は虐待を描いている話じゃなくてそこが救いがあるようだけど現実は辛く切なくて悲しみが襲ってくる。
親も貧困から抜け出そうと必死で働くから子供を側に置いておくことも出来ずかと言ってお金を払って預ける所にもお金が無いから預けられないという悪循環。
そこへ小児性愛者の男が来てボビーがそれを見つけて追い払った場面はとてもリアルで怖かったしボビーはモーテルの支配人だけどそこで暮らす家族に責任を持っていてオーナーには逆らえないが奮闘する姿をデフォーは好演していた。
今作のデフォーは本当に良かった。

あ、ケイレヴ・ランドリー・ジョーンズがちょこっと出てましたね。
特に何をする訳じゃなくモーテルでバイトをしている役であまり登場しなかったけど「ゲットアウト」とも「スリービルボード」とも違った顔を見せてくれた。
モーテルのバイト大変そう。


実はノーマークだった今作。
だってチラシにはデフォーは全く写ってなくて予告を観て出てるのを知りその内容に引き込まれた。
ずっとヒリヒリしていて切ない作品だった。
貧困て、親って、大人の責任て何だろうと考えさせられる作品だった。