せーじ

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のせーじのレビュー・感想・評価

4.5
新宿バルト9で鑑賞。
映画の日ということもあり、7割~8割くらいの入り。
幅広い年代の人が来ていたように思う。

エンドロールが終わり、明るくなっても「え…?」となったまま、固まってしまった。心の置き場所がどこなのか見失ってしまう感じというか、どんな顔をして帰ればいいのかわからなくなる感じというか。
想定外すぎる終わり方に、完全に思考が止まってしまった。

とはいえエンディング直前まではとてもクレバーなつくりで、映画的にも非常に完成度が高い作品だったと思う。周到に計算されたカメラワークや、意味が分かると途端に重みが加わる撮影構図、一見雑なようでいて、効率的で効果的なカットバックや色彩豊かな画面設計などなど、個人的には随所に好きだと思える要素が目白押しだった。
そして、徐々に悲劇的な結末へと向かっていってしまう主人公母娘の姿が哀しすぎて切なすぎて、ヒリヒリしながら「どう終わるんだろう」「どういう結論に向かうんだろう」という興味がどんどん膨らんだまま、気がついたら彼女たちから目が離せなくなってしまっていた。

ところが…

この作品は、そのヒリヒリが極に達した瞬間に、それらをすべてひっくり返してしまう。というよりも、それまでのストーリー展開とは一段ちがう次元の、ある意味フィクショナルでファンタジックとも言えるエンディングを叩きつけてくるのだ。それがどういう意味なのかがわからなくて、完全に思考を奪われてしまった。

今、落ち着いて考えてみるとそれは、「終わりが無い」「終わりでは無い」ということを示したかったのではないだろうか。映画には終わりは必ずやってくるが、この題材、つまり主人公母娘のような人々が出てきてしまう問題は、映画のように簡単に終わるものではない。あの白昼夢の様なエンディングを見せることで、この作品はこの作品そのものを「物語として読み終えるな」と(つまり現実の問題としてとらえ直すべきだ、と)訴えようとしていたのではないだろうか。最後の最後で物語として消費させまいとする「魔法」をかけられたから、こんなにもこの作品について考えずにはいられないのだと思う。

ただ、だからといっていたずらに難解な作品ではなくて、基本的には「人情長屋物ブラックコメディ」として軽い感覚で観ることが出来ましたし、子供たちのクソガキっぷりがリアルで笑えました。こういうガキんちょ、日本にもいるよなーっていう。
子供たちがそんな調子ですから、大人たちも相当アレな人達ばかりですけれども、アレな人たちだけではなく厳しいながらも優しく見守る大人もいるので、軽く入り込めて深く感情移入ができ、鑑賞後はじっくり考えさせられる作品に仕上がっていると思います。

最後に教訓をひとつ。
旅先のホテルを予約するときは、自分の手で確実にしましょう。
住所の確認も忘れずに。
せーじ

せーじ