いずみたつや

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のいずみたつやのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

おとぎ話の中のようにカラフルなモーテルは、まるで厳しい現実からの避難所。

管理人ボビーは、貧しい住民のため、あらゆる厄介事からこの"パステルカラーの城"を守ろうと奔走します。ボビーが建物のペンキを塗り直す姿が象徴的に見えるのは、気のせいではないかもしれません。

そんな場所で、伸び伸び育つムーニーと直情的な母ヘイリー。この2人は新人が演じたとは思えない奇跡の存在感を放っています。

ショーン・ベイカー監督は『タンジェリン』もそうだったんですが、登場人物を客観的に見守ることができる人だと思います。別の言い方をすれば、あまり"介入"をしない人ではないでしょうか。

つまり、誰かを救ったり、貶めたりするために物語を動かすことはせず、人物がそこに居て、あとはその行動をひたすら見守るスタンスを少なくともこの2作からは感じました。今作は『誰も知らない』にも影響を受けているらしく、確かに是枝監督とも共通点があるようにも感じます。

しかし、今回はラストだけがちょっと違っていました。

それまで全く見せてこなかったムーニーの大粒の涙を前に、何もすることができない観客のフラストレーションが頂点に達したその瞬間、まるで観客の思いが乗り移ったかのようにジャンシーがムーニーの手を掴み走り出します。

2人が訪れたのはモーテルのすぐそばにあるディズニー・ワールド。シンボルのシンデレラ城が見えたところで映画は終わります。

どちらかと言うと大人しかったジャンシーの思いも寄らぬ行動、iPhoneでゲリラ撮影したディズニーの映像など、その部分だけが何とも異質で、あっと驚くと同時に感動が込み上げてきました。

この場面ばかりは、監督の思いが抑制を通り越して物語を突き動かしてしまった瞬間なのではないかと想像します。だからこそ奇妙で、しかし確かに愛情がスクリーンから滲み出てくるような不思議な温かさを感じるのではないでしょうか。