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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のperoのレビュー・感想・評価

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全編iPhoneでトランスジェンダーの1日を追ったドキュメンタリー風の「タンジェリン」を撮ったショーン・ベイカー監督作。

6歳のムーニーはヤンママのヘイリー(監督がインスタで見つけたという演技が始めてとは思えないブリア・ヴィネイト)とディズニーワールドのお膝元、フロリダ州キミシーのマジックキャッスルと言う名のモーテルに住んでいる。
ムーニーは同じモーテルに暮らすスクーティ、ジャンシーとちびっこギャングよろしく、モーテルの管理人ボビー(ウィリアム・デフォー)に怒られつつ、モーテルを近所をディズニーワールドのように縦横無尽に遊び尽くしている。
ギリギリの生活をしているヘイリーが足を踏み外した事でその生活にも影が差し始める…

無敵の子供時代。
お金や家という大人の事情も関係なく遊ぶ事が全ての生活。
それをカラフルな映像で見せてくれる。
徹底して子供の目線で描く事で生活全てがキラキラして映るだけに、垣間見える母親のヘイリーの落ちていく姿が辛くて仕方がない。
何も出来ない事に見ている私は、ボビーのように立ちつくしてしまう。

ディズニーワールドの近所という事で街全体の建造物もそれのおこぼれに預かろうと夢のような作り。けれども観光客はその大通りを素通りして行く。きっと彼らにはムーニー達の姿は見えていない。
その彼らは福祉からも落ちこぼれてしまった人に無関心な私達の姿だ。

2016年のケン・ローチ監督の「私はダニエル・ブレイク」是枝裕和監督の最新作「万引家族」もシステムから転げ落ちてしまった人達の物語。
世界どこにでもある共通するシステムの病理。
そこに正攻法や正論は通じず、ただ不条理だけがある。

たしかマイケル・ムーア監督の2009年の「キャピタリズム マネーは踊る」のラスト近くでリーマンショック以降に自宅を失った人達が逃げ込んだのがモーテルだった。ヘイリーは違うかもしれないが、「フロリダ・プロジェクト」には家族でモーテルに住んでいる人たちも写し出され、彼らはまだモーテルから脱出出来ていない。

これらの映画は、いつ自分がそこに落ちてしまうかもわからないと言う事を教えてくれる。
残念ながら対処作は教えてくれ無いが、普段目にしようとしない彼らの存在を、あの無邪気で可愛いく最高にカッコいいムーニーがどこにでもいる事を教えてくれる。

重い事を書いたけど、とにかくムーニー達がキラキラしていて、その目線をまた思い出させてくれる貴重な一本。
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