マヒロ

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のマヒロのレビュー・感想・評価

4.0
フロリダディズニーランドのすぐ隣にある寂れたモーテルで暮らす若い母親ヘイリーと幼い娘ムーニー。
まともな家もなく、安定した収入もない母娘の貧困生活となると陰鬱な話になってきそうなものだけど、この映画ではそんな状況を知らずに無邪気に楽しむムーニーの目線から描かれていて、ポップな色使いも含めて、見た目だけは子供の一夏の思い出のような瑞々しさがある。

とはいえ、そのムーニーの目線では拾いきれていない所にはにっちもさっちも行かない厳しい現実があることは見て取れるし、ヘイリーの素行もお世辞にも良いとは言えず、正直この映画の延長線上にハッピーエンドが待ち受けているようには到底思えないあたり、そこで拒否反応が出る人がいるのも分かる。

ただ、ヘイリーのやり方は側からみたら駄目かもしれないけど、どんなに状況が困窮しても決して娘に八つ当たりして手を上げたりせずにただムーニーのことを想う一点のみで行動していて、そのひたむきさが感動的だし、母親としては全く間違っていないと思った。
だからこそ、児童相談所が介入してくる場面では、たしかにそうせざるを得ない理由は十分分かるにせよ、事情を知らない人間の介入によって無慈悲に引き剥がされる二人を見ていると、なんとももどかしい気分になる。そんな観客と全く同じ目線に立って親子を見守るモーテルの管理人役のウィレム・デフォーがまた良くて、女装したりパンスト被ってニヤニヤしたりしていた怪優とは思えない、枯れた格好良さがあった。

ラストでかまされる「fuck you」の大絶叫は、その場の状況に対してだけでなく、そういう状態に追い込まれざるを得ないような仕組みである社会全体に対する怒りだろうし、その後ムーニーに待ち受ける驚くようなラストは『ミツバチのささやき』のような、理屈とかそんなのを飛び越えた、映画の中でしか起こり得ないぶっ飛んだ感動があった。だからこそ物悲しくもあるんだけど。


(2018.45)[15]
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