マクガフィン

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のマクガフィンのレビュー・感想・評価

3.8
フロリダ・ディズニーワールドに関連した設定が良い。東京ディズニーランドは、土を盛り、木で遮り、パーク内から外部の余計な景色が入っていない設計である。おそらくフロリダも一緒だろう。徹底的に外の情報を排除することがメタ的になっていて、外から内も見えないし、階層の隔たりにも。作品はその間近の激安モーテルに住む貧困な母子の日常をリアルに切り取ったかのようなモキュメンタリー的で、子供視点からライトなタッチで淡々と描かれてる。

ディズニーワールドだけでなく、紺碧の空や染めたような夕焼けの美しさの背景、色を塗って表面上はカラフルだが人工的で無機質なモーテル、フロリダ独特のパステルカラーのPOPな建物の対比のような、子供たちの無邪気さや貧困へのアイロニーが味をもたらす。

舞台になる安モーテルの名前がディズニーに関連しているので、外国人観光客がディズニーホテルと間違うことを、距離の近さと世間から見過ごされていることをさり気なく、メタ的に微笑ましく描くことも上手い。

際限がない貧困は、その日暮らしで目途が立たたないが、それでも子どもたちは、瑞々しさ満載で現実を精一杯に謳歌する。次第に厳しい社会と現実に行き詰まるが、その微妙な変化を本能的に子供も感じ取る。

モーテルで暮らす理由は、日本で言うとネット難民に近い感覚かな。恐らくアパートを借りる幾つかの審査が通らないことと、国の福祉が行き届かないことが問題なのだろう。もう一つの大きな問題は、母親適性の難しい判断だろう。母親は一貫して娘への愛情を示し続けるが、職業適性どころか労働適性がなく、詐欺まがいなことを経て買春に至る。日本のような団地があれば救われる人も多いと思うが、子供に学校教育をさせないと貧困のスパイラルから抜けなせないのでは。仲睦まじいだけでなく、もう少し母親適性のラインを揺さぶる描写が欲しかった。また、邦画を見ていつも思うことは、全身にTATOOを散りばめている場合は、偏見や映画的な内面の心情や変身願望をメタ的に描写しているのか、イマイチ理解できないことが残念。特に女性の場合は抵抗があるのかな。

子供時代の通過儀礼のような純粋無垢で無邪気な子供時代の刹那的な最後の一時と同時に母子の別れを暗示したかのような最後の晩餐的なバイキングシーンは秀逸で、ラストに繋がる経過も上手い。

出会った頃は導いた友達にラストは導かれるように手を取り合って向かった先の見えなかった世界は、アメリカ社会の欺瞞を具現化した夢のような光景に、否応がなく社会の光と闇を連想して感慨深い。よく撮影許可が取れたと思ったが、無許可らしい。例え、撮影申請しても様々な審査のうえで許可が下りないことは明確で、生活保護の申請やアパートを借りる許可が下りない貧困者のような退廃な諦めと同じような心情だったのでは。