kou

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のkouのレビュー・感想・評価

5.0
何もかもがキラキラしていてカラフル。しかしそこに確実にある現実。そのシビアさが見え隠れする。
まず本作で印象に残るのは青すぎるほどの空とピンク色のモーテル。そこかしこに散りばめられたポップなカラーだろう。それはフロリダ、ディズニーワールドの近くにある安モーテル群だ。

その世界で描かれるのは、貧困でその現実を薄々感ずいていながら、自分たちの世界を生きる子供たちの姿だ。カメラはローアングルで撮影され、子供の視点からの世界が描かれる。大人は大きく、そして世界はカラフルだ、母親は香水を法外に売りさばき、映画の終盤には辛すぎる現実が待ち受ける。それでも母親は娘のムーニーと一緒に遊ぶ。一緒になって、決して神妙にもならず。

その現実に対して決して白黒をつけるわけではない。母親は怠慢で自己中心的だが、それでも無邪気でムーニーのそばにいる。胸が苦しくなるその間。そしてラストの緊張感あふれるカットの切り替えし、そしてラストの映画的な跳躍を見せる。それが現実なのか、あるいは彼女の創造なのかはわからない。でも確かにそこに存在するのだ。

全てのカットを思い出して、少し涙ぐんでしまうのは、それが恐ろしいほどきれいだからだ。空の高さ、真夏の雨、花火、虹がかかる空、美しく輝くカラフルな世界。並行して描かれるいたたまれなくなるほどの現実。美しいものがたくさん溢れている世界、でもどれも手が届かないのだ。夢を見て、希望をもって生きる。子供ならなおさらだ。ムーニーがこれからどうなるのかわからない。でも現実は綺麗に彩られた世界で終わらない。夢の国の中にあるとても深刻な環境、それらを描いている。でも決して悲しい、だけではない。その手腕こそ本監督の絶妙さだろう。母親がどうしようもない、なんてそんな言葉で本作を片付けるのはあまりにももったいない。僕は大好きな、素晴らしい映画だと思った。傑作だった。
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