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フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のmoimoiのレビュー・感想・評価

5.0
ディズニーランドのそば、パステルカラーの〝マジックキングダム〟で生きる母娘の過酷な毎日。
貧しいが不幸かといえばそうでもなく、母は愛する娘とハッピーに生きるために必死だった。
誰が彼女を責められようか。
ヘイリーと「わたしは、ダニエル・ブレイク」のケイティ、「万引き家族」の信代は同じ地平に立っている。
なぜ彼女たちがそこに立たされているのか?
自己責任のもとに断罪されていいのか?
誰かの〝正しくなさ〟との向き合い方は?それを排除するのでなく内包していくべきなのではないか?
社会の在り方が真っ直ぐに問われている。

ショーン・ベイカー作品は「タンジェリン」しか観てないが、目を引くテーマカラーを画面にあしらいながら人生の残酷さを描くのが上手いと感じる。
「タンジェリン」は曇ったようなオレンジやイエロー。
「フロリダ」はパステルのパープル、ピンク、ブルー。
モーテルの外壁、子どものTシャツ、ヘイリーの髪色。
メルヘンチックなカラーで苦痛を糖衣しているかのようだ。
母娘は苦い現実を知りながらも、僅かな収入でチープなアクセサリーを買ってはしゃぎ、青空の下でワッフルを食べ、水着撮影会ごっこをし(何に使う写真なのかを思うと心が引き裂かれる)、遊びに行けないディズニーリゾートの花火を見てバースデーパーティーをする。

子どもの顔がアップになるカットよりも、背中や引きのカットが多い。
母娘をクローズアップした視点と他者からの俯瞰が混じる。
二人だけの世界は楽しく、カラフルで、暖かい。
しかし管理人(ウェレム・デフォーの佇まいが良い!夕闇の中でタバコを吸うシーンの横顔と背中の素晴らしさよ!)から見ると悲惨極まりない。
主観と客観の視点の切り替えや、ふいに実録映像のようなカメラワークになる瞬間が、この物語と現実世界の境界を溶かす。
「フロリダ・プロジェクト」は今も世界のどこかで起こっている。
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