潮騒ちゃん

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法の潮騒ちゃんのレビュー・感想・評価

4.6
6歳の女の子ムーニーの王国は、ラベンダー色のモーテルだ。そこら中に危険が転がる無法地帯で、彼女は力いっぱい遊んでいる。汗ばんだおでこ。お砂糖でペタペタしている手のひら。抱きしめたらきっと太陽の匂いがするだろう。笑って叫んで跳び跳ねて、子供が子供のままそこにいる。リゾート地のすぐそばで貧しい大人がひしめき合い子供を育てる現実。自らも充分に幼い母ヘイリーの危うさがそれを物語る。モーテルに暮らす人々は皆わけありで、所謂「全う」からは程遠い。唯一真人間に見える管理人もまた、何かを背負い何かをなくして生きてきた人なのだろう。仏頂面でも隠せない慈しみは、深い痛みを知る人のものだ。ムーニーとヘイリー。じゃれ合う母子を眺めて思う。愛することと守ることは必ずしもセットじゃないんだ。子供には安全と教育が必要で、ここにはそれが何もない。ところが、そんな不条理にも魔法がかかってしまう。やるせなさも失望もカラフルに染めるキラキラ。あまりに眩しくて思わず微笑んだ。子供にしか使えないその魔法は、最後の最後まで決して解けることはない。ムーニーはきっとママのみどり色の髪の毛が大好きだったはずだ。
潮騒ちゃん

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