Shelby

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のShelbyのレビュー・感想・評価

3.6
これはまた。絶句するような、つい目を逸らしたくなるような。たまに存在する、そんな筆舌しがたい映画。全編にて際立つ美しい配色の風景。
ファストフード店、空、壁、樹木、原っぱ。
カラフルで、純粋無垢な子供たちにとってはどこであろうと、ディズニーワールドでなくとも立派な遊び場であるかのように映るのだ。現実とかけはなれたその対比がまた酷く痛々しい。

舞台は、フロリダにあるディズニーワールド。ではなく、その近郊にある安モーテル。そこに暮らすシングルマザーのヘイリーと娘のムーニー。この親子が日々を如何にして生き抜いているかを切り取った作品。近くでは夢の国として、幸せな時間が流れる中、ここでは無情な現実が容赦なく突き付けられる。シングルマザーで、何より怠け者のように映るヘイリー。その日暮らしでとりあえず当面の間住む所としてモーテルを住処としている。
そんな母親の背中を見て育ったためか、駐車場の車に唾を吐きまくったり、空き家に放火したりとやりたい放題の娘ムーニー。育ったように子は育つと言わんばかりにふたりの姿はリンクする。定職にも就かず、その日をどう生き延びるかすらも危うい人間が部屋を借りられないという現実。その憫然たるや。そんな状況にも関わらず、そこまで絶望的に見えないのがこの映画の恐ろしいところ。
子供の視点で大人の世界を観ると、こんな風に写るのかと言わんばかりのリアルな演出。ムーニーがお風呂に入っている間に、母親が売春するシーンなんて衝撃的すぎて。直接的なところなんてないのに、しっかり今起こっているリアルを描き出すこの演出は心痛む。

ひとり、またひとりと、ムーニーの前から友達がいなくなってしまい、そして、ムーニーにも福祉局の魔の手が。全てを悟り、ムーニーは友達のジャンシーにお別れを告げる。ただ事ではない自体を察したジャンシーはそんな現実から逃避するように、ムーニーの手を取り2人してディズニーワールドのシンデレラ城へと消えていく。

間違いなくそこにあった、真夏の魔法。マジカルエンドの余韻は衝撃的すぎて暫く放心してしまった。きっと、ふたりはあの後大人達に連れ戻され、離れ離れになりムーニーは福祉局に連れ去られていくのだろう。そんなわかり切った未来を見せることなく、マジックキャッスルに消えていく幼い子供ふたりの姿。

輝く夏空の下で、確かに生きる2人の親子。ひとつのプロパガンダ映画なんかではなく、私達もマジックキャッスルで子供としてひと夏を過ごしたかのような気にさせられる物議を醸しそうな映画だった。
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