ninjiro

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のninjiroのレビュー・感想・評価

4.3
どうして誰も助けてくれないのかなと考えたことはあったけど、私が悪い子なのは確かだし、私のために誰か他の人が必死になるなんて、そんなのそもそもおかしいもの。
ついこの間まで大きな樹にもたれ掛かって、その樹が何故季節毎に葉をつけて、実をつけるのかなんて考えたこともなかった。激しい雨の日があったから、次の晴れた日にはそのあなたの不思議を知りたくて、幹にぴったり耳をつけて聴く振りをするの。でも結局何にもわからないから、その大きさにだけ安心して、何マイルも離れていないお母さんのことを思い出して吹き出して、何笑ってんのってまた友達と笑った。久し振りに笑ったなんて、そんなんだったっけ、私はいつでも笑ってる。
大人になったってやれることなんて多寡が知れてる。自分にやれることは、気付いた時だけ、もっと言えば気が向いた時にだけ。神様でもなければ金持ちでもない、ただ生きる為の大多数は良心だって時には大きなお世話になるってことを織り込み済みで生きるもの。倒れた樹にだって養分が必要で、それをずるずる生きてるなんて誰にも非難される謂れはない。沢山雨が降ったんだってさ、良かったね、大変だったね、誰が何を言ったからって一々目くじら立てたって仕方ないんだ。多寡が知れてる、そうやって激しい雨から逃げるしかない。哀しいことに慣れっこにはなりたくない。いつだって。
そんなに守りたいものがあるんなら、死ぬ気になって守ればいい。ただ誰かの懐に直接手を突っ込むような真似はしないこと、そうすりゃ誰も文句はないよ。私ならそうするし、きっとみんな同じ意見だろうね。あんたの顔を見てご覧、ただ楽しそうに生きてるか、明日をも知らずにその場しのぎのヘラヘラした顔に見えるか、私以外にも聞いてみたらいい。どんな子どもだって昔話で知ってるよ。怠け者や他人の足を掬う奴が、何だかんだあって結局いつまでも幸せに暮らしましたとさなんて、一体誰が納得するんだってこと。
どうして助けてくれるのかなんて泣き喚いたりしてさ、これまで誰も気に掛けてくれたことなんてなかったのに、一生懸命良い子にしようとしたこともなかったのに。激しい雨が降ったんだってさ。遠くの花火は私達のために打ち上がるんではないけど、せめて雨が降らなきゃいいなと思ってたよ。確かにこの眼に映るものだからじゃなく、それが幻だったとしても、いつだって信じられる魔法みたいに見えるのなら。
さあ目を伏せて、願いごとを。
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