LudovicoMed

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のLudovicoMedのレビュー・感想・評価

3.9
ウォルトディズニーワールドの公式PR映像にするべき、夢と魔法の詰まった愛しい作品。

人が造った建造物でありながら、世界で最もマジカルなパワーを持つ空間。

そんな夢の国の近隣の安モーテルに住む、貧困層の親子2人の物語。

オープニングとクライマックス以外劇伴なしの、ほぼ映画内ドキュメンタリーのような作り。

特に前半部と後半部で撮り方が大きく変わり、一見ドキュメントのように出演者に寄り添った、その場にいるような無造作な描写に見えながら、実はものすごく完璧に計算されたアングルや、場面ごとに誰のカットを抜くか、起こった出来事を何%観客に情報を入れるか、または出演者のリアクションだけ収めるかなど、非常に周到な画面構成と、「ストーリーの推進力と伏線の仕掛け」が同時に進行するという離れ業をやってのけた。

これを少しでもバランスを崩せば、ただ意味深な会話やカットばかりが続く奇をてらった作品になりそうな所を絶妙な塩梅で構築されている。

それこそ、『この世界の片隅に』のような物語を進めながら、実は細部にまで後に明かされるディテールや現実の延長線上の実存感まで持つ、画面の演出にすごく似ていると思う。

時折現れるヘリコプター、倒れても育っている木、虹を見て言うセリフなど『この世界の片隅に』同様鑑賞者の汲み取る活用力が要求される作品でもある。

前半はムーニー達の日常に密着し子供から見たモーテル周辺の世界や、子供から見た大人たちを描く、 2幕目あたりから、ヘイリーの厳しい現実を生き抜く生活の術を丁寧に観せていく。
大人と子供、両方からの視点で貧困層を見せることで、希望と絶望が同居する現実を映し出す。

加えて、全篇カラフルでワクワクするような映像を駆使し、ムーニー視点での冒険に満ち溢れた「世界」を表現している。
しかもマジックアワーでの撮影のカットも何度か入り、視覚的に嬉しい映像も秀逸。


しかしクライマックスでは、華やかな映像から唐突にiPhoneカメラのような、荒々しい撮影に切り替わり、観客諸共現実に投げ出される。
最も映画的な展開でありながら、映像はより現実に近い生々しさを魅せる。
おそらくムーニーが大人への成長を自ら察し、子供時代に見ていた「世界」から社会を認識したであろうこの映像転換は、あまりにも切なく、胸が締めつけられる。

そして彼女達が行き着く先は、最も現実を逃避できる空間であり、まるで彼女達のために造られたステージにも感じてくる。

最高のエンディング。 まさかここで幕切れするとは!
ハッピーにもバッドにも取れるラストは、現実の延長線上と映画のフィクションの垣根を取り払うかのようなとびっきりの魔法。

邦画の優等生タイプの作品で描かれるような同情を誘うようなものと違い、ムーニー達なりのアンサーを出し、それを観客は静かに見守る。 ウィレムデフォー演じるモーテルの管理人さんのように。

全篇で積み上げた細かい伏線やディテールで語られる数々があったからこそ、このカタルシスを得られる。


そして役者の演技に関しては、上手いとかレベルを超えて、自然主義すぎて映画であることを忘れてしまうくらい。

特にムーニー演じるブルックリンプリンスの感情のダムが崩壊したような泣きの演技はもうヤバイ。


本作はどうしようもない母親のヘイリーを受け入れられるかどうかでかなり好き嫌い分かれると思う。 決して褒められたもんじゃない言動や行動にあの展開は、自業自得だと思うが、そんなことも凌駕するほどの威力を持つラストは忘れられない。
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