きえ

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のきえのレビュー・感想・評価

3.6
この作品が私にとって致命的だったのは若き母親に全く共感出来なかった点。。。それを前提としたレビューです。

安モーテルを舞台に貧困層母娘の日常を好奇心に満ちた子供の目線で映し出したカラフルな作品。お転婆だった自分の子供時代を思い出すような懐かしさもあった(あんな悪ガキじゃなかったよ!笑)。

現実を逃れる様な虹色の街は眩い太陽と煌めく時間だけが与えられたある種の夢の国。しかし若き母親と母親由来の娘に終始共感不全だった私は全く乗れぬままラストまで夢の国を右往左往。そこで迎えたまさかのエモーショナルなラストにウルウルドバー(涙)な結末。

共感不全のストレスがあったからこそラストがより私の感情を動かした。あの時初めてムーニーに寄り添えたし粗暴な言動も無邪気な笑顔も強がる癖も全てに理由と過程があって途端に切なくなった。子供は生まれる境遇を選べない。でも子供はたいがい母親が好き。なんて切ない本能的心理なのでしょう。

作品に対しては傑作とか母親に対してはチャーミングとかTwitter上での声も多かったけど私は全くダメで『愛?強さ?どこに?変わろうとしない生き方はなぜ?』って終始苛立った。短絡的で粗暴な母親のキャラって一体何なのかを考え続けた。そして分かった。彼女自身が貧困の中で愛も教養も知らずに育ったのだろうと。責めるべきは彼女ではなく貧困の連鎖なのだと。この作品の根はそこなのだと。

ただこの作品は貧困=不幸と言う視点ではない。大好きな親がいて友がいて自由でいられて日々の遊びや冒険に好奇心が満たされて食べて寝てまた明日が来る。そんな日常から見える景色は明るく彩られたポップな世界なのだ。まさに映像の世界そのもの。

夢の国の外側には内側とは別の眩さがあって卑屈とはかけ離れたガキ共(愛着を込めて)のおてんばな笑いや想像力や生命力がある。不幸を定義するのは自分であって他人ではないはずなのに人は目に見えるもので幸不幸を判断してしまいがち。本当の豊かさとは何かを考えさせられる。でも同時に貧困の連鎖を断ち切る為に社会が手を差し伸べる事、導く事は絶対必要なのだと、それこそが夢の国なのだと思う。

子役達の躍動感は素晴らしかった。特にムーニーを演じたブルックリンちゃんの演技が天才的過ぎてそれが1番のマジカルだった。
きえ

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