moridon

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法のmoridonのレビュー・感想・評価

4.0
夢を見ることしかできない人たち。

アメリカ合衆国フロリダ州。夢の国のすぐ近く、外見だけは華やかに取り繕われたモーテル。そこに暮らす母と娘。

家賃を払うことすらままならず、友人の店から分けてもらった食料や配給のパンで食いつなぐ。実際にこういった人々は数多く存在している。家を借りるための基準をクリアできず、高いモーテルで暮らしながらなんとか日々を生き抜こうとする人々が。

モーテルのすぐ近く、夢の国からは花火が上がっている。彼女たちはそれを、ただ見ることしかできない。手を伸ばしても届かない。しかし彼女たちからは笑顔が絶えない。毎日苦しいはずなのに、その瞳はキラキラと輝いていて、美しくも脆いガラスのように思えた。

終盤、母親ヘイリーのある事実が発覚した時、水着を着て撮影会を始めたシーンやムーニーが大音量で音楽を聴きながらお風呂に入っていたシーンがフラッシュバックする。ああそういうことかと。こういったドキュメンタリー調の映画は進行が単調になりがちだけど、しっかり伏線が張り巡らされていて楽しめる。

何よりラストシーンの素晴らしさたるや。
ディズニーに無許可で撮影したというあのカット、あり得ないはずなのに今までのどのシーンよりもリアルに感じる。希望と絶望が入り混じった、とんでもない映像だった。

この映画を観て、母親のヘイリーのことを責めてはいけない。彼女の行動そのものは確かに褒められたものではない。しかしなぜ彼女はそうしたのか、そうせざるを得なかったのか。悪いのは彼女なのか、そうさせたこの世界のシステムなのか。そして、この映画で語られた問題はアメリカのみならず、日本にも蔓延っている問題であること、それを考え続けなければいけない。
moridon

moridon