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月子のkyokoのレビュー・感想・評価

月子(2017年製作の映画)
3.5
「海辺の生と死」の越川道夫監督が三浦透子と井之脇海をダブル主演にして撮った作品。「海辺の~」は個人的には評価の低い作品だったけれど、その中でも井之脇海の演技が光っていたので観ることにした。

父を自殺で亡くし、家も仕事も失った青年タイチと、「家に帰りたい」と施設から逃げだした知的障害の月子のロードムービー。
というとなんだかありそうな気もするけれど、かなり無理やりな部分が多い。
施設職員と巡査を振り切って逃げた時点で「いやいやそれはないわ」と思ったが、渋谷でも巡査の職質を華麗にスルー。(ふたりの出会いの風景からして山に囲まれた地方かと思ったが関東近郊だったようだ)
パニックを起こす月子をタイチが強引に連れて歩いても、渋谷の雑踏ならまぎれられると考えたのか。誘拐で全国手配されててもおかしくない状況でそんなに都合よくはいかないだろう。

どうもこの監督は都合の悪いところや説明は無視して、自分が撮りたいところを長々と撮る傾向にあるようだ。とにかくワンシーンがいちいち長い。延々夜の暗さが続くとちょっと疲れてしまう。自殺した父親が出てくるシーンは、悲鳴が出そうになるぐらい本気で怖かった……

と、すごくこき下ろしたような書き方になってしまったけど、そこまでひどいわけではない。主演のふたりの演技、特に月子にはひきこまれた。

月子の発語は明瞭ではないけれど、耳がいい。鳥の鳴き声を聞き分けたり、歌も歌える。渋谷での雑音は聞こえ過ぎて恐怖。スクランブル交差点を上から見下ろして「みんな迷子」と呟く月子。途中で拾ったラジカセに耳をそばだてる月子。
骨壺をカラカラ言わせて持ち歩くタイチ。意志の疎通ができない月子にいらだちながら、見捨てることができないタイチ。
ひとりぼっちのふたり。

ラストはちょっと感動した。
君たちこれからどうするんだい?と思わないでもないけれど。

ポスターの「この星は誰のもの?」というコピーは、月子の家があった場所と関係しているようだ。
帰るべき場所が失われることへの恐怖。みんな迷子。おそらく監督が真に伝えたいテーマはそこなんだろう。
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