菩薩

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスの菩薩のレビュー・感想・評価

3.9
アナログの知の集積地はデジタル配信の基地となり、そこに集う人々の語り場となり、民主主義参画への出発点ともなる。公共を維持するにはそれ相応の予算がかかるとの現実的な視点はワイズマンらしいと思うが、その大樹は枝葉と蔦を伸ばし、その街を一つの共同体へと創り上げて行く。公共の場は公僕となり、その農園主たる市民の生活を実りあるものへと導き、その実りは再び市民に還元され、公的な援助も呼応し、理想郷は理想郷としての輝きを増して行く。白人富裕層と黒人貧困層に対する冷徹な目線は相変わらずだが、ワイズマン自身もこの取り組みには希望の眼差しを向けているのではないかと思った。図書館は民主主義の柱である、学び、語り、参加し、その小さな世界の自由は形作られていく。公共の場での他者への尊重がいつまで経っても上手に出来ない日本人はこの映画から多くを学ぶべきだと思うし、利益追求にばかり筋肉と情熱を燃やしている某幻冬舎のマッチョは出版社に課されたその重責を改めて理解するべきだと思う。人類の叡智の活かし方、過去から学び未来を見据える事の意義、歓喜と祝福の変奏曲は叙情的なアリアで幕を閉じる。
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