中嶋條治

ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリスの中嶋條治のレビュー・感想・評価

4.5
岩波ホールが満員御礼になる程の注目作。あまり好みでは無いものの、良い映画でした。
というのも、私はワイズマン監督作を今回初めて観たのですが(勉強不足です)、抑揚に欠けて眠くなる。しかも尺が3時間25分です。加えて岩波ホールの座席は背もたれが低いので寝心地が頗る悪く、眠くてウトウトするだけでも身体のあちこちが痛くなります。臀部だって痛くて堪りません。
ただ、こうした苦行を差し引いても観る価値のある作品です。
図書館という物に対して私は愚かな固定観念があったのだと再認識しました。図書館はデジタル化の流れに取り残される存在なのかと思いきや、むしろデジタル化の流れに取り残された市民をデジタル環境に招き入れる努力をしています。凄い。
公共図書館と言うだけあって、NYPLは市と民間の両方から予算を貰って成り立っています。予算不足に対する議論や紙と電子の本の扱い。閲覧数の多いベストセラー小説か、人気は無いが重要な価値を持つ研究本か、など、正解の無い議論をしっかりしていきます。これがディベートか。これが成熟した民主主義国家の姿かと目から鱗が落ちて行きます。
出てくる仕事内容も多岐にわたり、これまでやってあげるの?と思う点が多々ありました。

一番好きなのは何と言っても休憩後の場面、舞台芸術図書館の手話通訳者のくだりでした。
ジェファーソンの独立宣言を、「怒り」の感情「懇願」の感情それぞれで読み上げてもらい、そのふた通りの感情を手話通訳者が見事に手振り・表情全てを駆使して表現している場合は元演劇部員として感動しました。同じ文章を朗読していますが受け手の印象は全く異なります。映画はともかく、演劇は恐らく聴覚障害者の方にとってかなり厳しい娯楽だと思います。この手話通訳者は、聴覚障害者にも演劇を耳が聞こえる人並みに楽しんで欲しいと思っていて、ならばただ手話をするのではなくしっかり感情を持って伝えるのが大事だと。この姿勢には敬服しました。素晴らしいの一言です。
正直、前半は興味深い内容でも寝る場面が多かったのですが、後半は大丈夫でした。多分この手話通訳のくだりが後半第1番に来ていたからです。休憩後の一発目ですから、落語で言う「お仲入り」後の「食いつき」にあたりますが、最高の食いつきだったと思います。これで観客は再び映画の世界にトリップできたのではと思います。

眠くなりますが、非常に考えさせられる映画です。我が国の図書館との違いや比較をしてみても面白いでしょう。
本作が本の町である神保町の岩波ホールで公開されているのは素晴らしい事だと思います。日本にはここまで凄い図書館は無いと思っている方も沢山いると思いますが、日本にだって神保町があるし、コミケ・コミティアなる自主制作書籍(同人誌)文化があります。これはこれで素晴らしい事なので、良いところは伸ばしまくり、改善すべき点はとことん改善していけばいいんです。
7月までやっているので、興味のある方は是非観てください!!
中嶋條治

中嶋條治