こうん

ポルトのこうんのレビュー・感想・評価

ポルト(2016年製作の映画)
4.5
超うろ覚えだけど巨匠ルノワールが「女の肌に宿る官能だけが映画なのだ」というようなことを仰っており、イチ映画フアンとして僕はその言葉を金言として拝受しているのですけれども、その言葉を畏れ多いながらここで僕なりに意訳させていただくと…

おっぱいはジャスティス!

…ということになります。
「ポルト」観てそう思いました。
ジャーのムッシューが眉間に青筋立ててお怒りになられるかもしれません。

いや、ジャームッシュが製作総指揮だなんてエンドロールで気づいたくらいで、僕はポルトが舞台であることとアントン・イェルチンの遺作であることと本編の1シーンをまんま使った予告編に魅かれて、それでもって観に行ったわけですが、まったくもって予想もしていなかったタイプの映画で驚き、なおかつ嬉しくなったりもしましたです。

これ、ジャームッシュ印とイェルチン遺作の売りがなければユーロスペースやイメージフォーラムあたりでかかっていそうな映画ですね。
そのくらい、アートな映画でした。

アートな映画っていうと語弊があるけど、オリヴェイラやユスターシュやブレッソンたちの映画を激しく想起させる映画でした。
つまり、オリヴェイラ的な風景の中でユスターシュ的なドラマをブレッソン的な即物的筆致でもって描かれた映画。
また多分実際に、監督のゲイブ・クリンガーさんはその先人たちにリスペクトを抱いているんでしょう。

それでいながら、ドラマとの現代的な距離感をとりながらリンクレイターの「ビフォア~」3部作に通じる”男と女の彷徨”を描いた野心作でもある、と思う。

フィルム撮影を行い、ビスタ/スタンダードサイズを使い分けるなどして時制を表し、またその時制をモンタージュさせることである種の感傷や客観性を前景化させる”人生の考察”の映画にもなっているのは、21世紀の映画作家らしい柔軟さでもあると思う。
ちょっと「ブルー・バレンタイン」も思い出しました。
そこが「ポルト」の映画の外殻的な魅力として感じ取られ、とても「映画を観ているぅ~」という悦びにつながっていました。

そして上記のようなアプローチで描かれていることは、孤独を抱えた男と女が出会い刹那に魂が触れ合ったことによって生じる葛藤劇。
古典的な、しかし普遍的な男女の営みです。
飽きることなく繰り返される、根源的なすれ違い。

それがめっぽう魅力的で!あぁ!なんたる切なさよ!
男の情熱、女の本能、その間にある瞬間ごとに形を変える”愛”という不可思議なもの。
その愛に翻弄される男の愚かさ、女のためらい。
そのひと時の魂の触れ合いの尊さ、刹那、残酷さ。
不可避の出来事で、不可逆の出来事でもある。
本作ではある男女の邂逅がそう描かれているけども、それは人生の一瞬一瞬もまたそうであるということだ。
掌に受けたそばから零れていく時間と温もり。

…なんか色々なことを思い出して、胸の奥がスキューンと鳴りました、馬鹿みたいだけど。

孤独な根無し草で純粋さと危うさをはらんだ青年を演じたアントン・イェルチンは素晴らしいし、本能と現実のはざまで漂うかのような女を演じたルシー・ルーカスさんももっと素晴らしかった。
その2つのキャラクターがまた良くってねぇ…あの予告編にも使われていた夜のカフェでの出会いのシーンなんか(エキストラの動きとかも含めて)素晴らしいんだよね。

それに個人的には、生涯ベスト映画のひとつ「ママと娼婦」のフランソワーズ・ルブランさんの喫煙姿に再会できて至上の喜びだったし、巨匠オリヴェイラの生まれ故郷で何度もその映画に登場したポルトの街並みがまた新たな視点で魅力的に描写されていて、こちらもたまらなかった。そして演出の簡潔さや画面の質感や男女のウロウロ具合はブレッソンの「白夜」の変奏曲のようで、たまらんものがあった。

(愛好するものと似通っているからと言って映画の価値が上がるわけじゃないけど、そのことが単純に嬉しいし、その似通っている部分が言葉じゃ正確に説明できないから、こんなこと書くんです)

個人的には大いに楽しい映画であったんだけど(エンディングで「え、もう終わり?」と思った)、どちらかというと一般的には魅力に乏しい地味な映画ではあると思う。
なので積極的におすすめしようとは思わない。

でも僕はこの映画に大いに感応してしまったのですから仕方がない。
それを言葉に表すのは難しいけど、あえて言葉にするならやっぱり

おっぱいはジャスティス!

…ということになるでしょうか。

ルシー・ルーカスさんのおっぱいは理想のおっぱいだし、それはそれとして、ジェイクとマティが睦合うことになる荷物運びからのシークエンスは…最高ですね。
その最高なのがあっというまに手の届かないところに行ってしまうことが、なんとも言えない感傷に充ちていて、胸がじりじりするのです。

そしてこれが最期なのかと哀しくなったアントン・イェルチン…いい仕事しました。ありがとう。
R.I.P.
こうん

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