新潟の映画野郎らりほう

戦争と平和の新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

戦争と平和(1965年製作の映画)
4.9
【映画のエベレスト】


観賞中何度驚嘆した事だろう、何度涙した事だろう、そして一体何度鳥肌立ったんだ。
ナポレオン進攻期のロシアを舞台に、貴族・農民・老若男女種々様々な人々のありとあらゆるドラマを描いたソ連ならではの採算度外総尺7時間超の弩級大作。
知的芳醇・詩的美性・哲学的示唆・韻律的快感を醸し出す[ロシア語台詞群]。 社交デビューの絢爛舞踏会や 名誉の為の決闘、バラライカに乗せ躍る体躯から発散されるロシアンソウル等 当時の[興味深いロシア風俗・慣習]。 厳しく凍てつくも広大で豊かな[ロシアの四季・自然]。 新聞と伝聞程度しか識る術が無かった人々の[戦争への幻想]と後に襲う[戦争の実態]の隔絶。 上記を散見させつつ、対仏ナポレオン軍との激しい戦争が信じられないスケールで描かれてゆく。
露仏の帰趨を決すヴォロジノ大戦だけで 普通の映画一本分のボリュームに驚愕。 地平線迄蠢く大群衆が空撮で捉えられるが、雲の上迄キャメラが引いても 群衆がフレームに入りきらぬ物凄さ(目算ではエキストラは20万人か)。 モスクワ炎上時のカオスが凄まじく、戦争を通り越し[この世の終わり]とすら思う程だ。
その激烈な悲劇・虚無の惨禍の中で、二人の男ーアンドレイとピエールーが『それでも生きる意義』を見つけ、或いは気付く場面の哲学性・鮮やかさよ。 恋に恋する少女ーナターシャーが 幾多の苦悩と葛藤を経た末に見せる『人としての成長』のラストワンショットの写実性・素晴らしさよ。


台詞有の登場人物が500人超と膨大。 物語る人物=主観が激しく変遷(人だけでなく 神や大木、猟の獲物である狼の主観迄ある)する上「表情の判別も困難な 画面奥の人物がいきなり喋り出す」独特の会話場面等 惜難点も確かにあるが全体の前では微々たるもの。
恋愛・哲学・詩性・芸術・スペクタクル・文化・自然的事象ー及び当時東西冷戦の暗喩ーの全てを内包し屹立するドラマに心の底から陶酔した。




《DVD観賞》