目が覚めていても、外に出ることも、友人の電話に出ることも、起き上がることもしない
何もしない
白く広い部屋で、ただ寝返りをうつだけ
料理してるときに踊りだしたら吹きこぼれて焦って笑った時、写真を撮られていたあの時間、あの時の赤いコート、夫が話していたカフェ、どの瞬間も会話も表情さえも鮮明に覚えていて、
わめき散らしたり泣き叫んだりなんてしない
悲しみに溺れることもない
喪失感にくれることもない
ただ、彼が思い出されるだけ
夫を亡くした大人の女性が遠くに住む友人を訪ねに行く話ですが、そのリアルな姿からは、彼女にとって夫がどれほどの価値があったのかがよく伝わってきます
彼がいたから人生は変わって、ちょっと大人になって、新しい考えを知って、希望を持てて、いっぱい笑顔になって、それは描かれていませんけど、それでも彼がいたことでたくさんの影響を受けたに違いないのです
だから彼の死は、辛いとか虚しいとかの言葉にならないもので、私にとっては確かに響く作品でした