むらみさ

マーウェンのむらみさのレビュー・感想・評価

マーウェン(2018年製作の映画)
4.1
たくさん、様々な苦しみが描かれていて目まぐるしい。見ていて面白いけれどもつらい。

ロバート・ゼメキス監督作らしい予想外なアングルがたくさん盛り込まれていて、いろいろな角度からマーク・ホーガンキャンプの人生が撮られているのに、マークが持つ自由な創造性と並行して進む現実が見えてくるとつらい…
だからこそドールたちが動き出すとホッとする。時間は前に進んでいるのだなぁと思い出させてくれる。
彼の生きている時間と、私の生きている時間の速度が少しだけ違うというだけ、そう思わせてくれる。
けれどもマークが課せられている苦しさは自分にも思いあたるものばかりだ。


困難を前に立ち上がれなくなったときに【更正】させられる苦しみ。
男らしく、強く生きることを要求される苦しみ。
己の弱さに目を向けねばならない苦しみ。
創作物から己の‘逃げ’や隠しておきたいことも伝わってしまいかねない苦しみ。
そして、皆がみな真に愛したひとと添い遂げられるわけではない、孤独と対峙する苦しみ。

人生は最上の唯一無二のものだけで出来上がっているわけではない。たかが代替品、で進まざるを得ないこともある。
けれども愛したもので人生は彩られていくことを、私は改めて本作に教えられたような気がする。

自分と、じぶんの好きな世界とで生きていられたらどんなにか幸せなことだろう。そんなことばかり考えていた時間が私にもある。
他人から向けられた悪意から(マークの比ではないけれども)他人と生きることに苦しみしか見出だせない時間、きっと誰しもが感じていること。
ひとは誰かと共に生きるとき、支えられると同時に相手に支配もされもする。
価値観を押し付けられもする。
誰かの目を気にせずにじぶんのなかへ逃げ込めるくらいに遠ざけてしまえば良いのだろうが、それだけで生きていけるほどに【個人】というものは強くできてはいない。

わかりやすく押しつけがましい‘希望’こそ映画のモチーフとして活きるものはない様に思えるけれど、
わざわざここまで遠回りして細やかに、もう少し生きてみる・明日までは生きてみるといった様な痛みと共に過ごす時間を丁寧に描いてくれるゼメキス監督が好きですね…
本当に。
むらみさ

むらみさ